「正論」を超えた「正解」を。

突然ですが、あなたが起業を考えたとする。たとえば飲食店を開くとして、まず始めにどんなアクションを起こすだろう。正解と呼べるものはないけれど、どんな種類の料理を出すのか決める前に、店の立地条件、つまり周囲はどんな環境なのか、そこを丹念に調べるのではないだろうか。

駅は近いのか、ちょっと距離があるのか。通行人が多いのは昼間か、日が暮れてからなのか。学生街か、オフィス街か、家族連れが多いのか。男女はどちらが多いか。年齢は何歳くらいが中心か。それらをじっくり調べた上で、「よし、それならコーヒーショップだな」とか、「家族で過ごせるファミレスがいい」とか、「回転率のいい牛丼かカレーのチェーン店だ」とか、「値は張るけど、ゆったり食事を楽しめる洋食屋」と決めていくのが正解に近いやり方だろう。

飲食以外の世界もきっと同じで、今の社会の状況、人々の嗜好に合致していて、「次」に火がつきそうなものをリサーチして勝負に出る。それがビジネスにおける正論のはずだ。で、私はどうしたか。これまでの四半世紀、ずっと報道の世界で働いてきて自分が「仕事」というフィールドでいつまでバリバリやれるのか、残り時間を逆算して「このタイミングだ」と転職を決意したのだが、アイスホッケーを、アイススポーツの現場を仕事にしてしまった。いまのところ、まったくバズる気配のないこの競技を、単に、好きだという理由で。

ビジネスの正論から外れているのは百も承知だ。だから、これから求められるのは従来の正論を上回る「正解」を生み出すことだと思っている。「これこれこうだから人気がない」と正論を語るのではなく、「ここをこうすれば上に行ける」という正解を考え、実行する。そのためのエネルギーと、多くの方々に協力してもらえる仕組みを皆さんの理解と力をいただきながら生み出していきたいと考えている。


Bリーグが世に与えた「衝撃」 

秋のシーズン開幕まで、日本中を回ってきた。高校アイスホッケーのチームを訪ねつつ、仙台で楽天の試合を、釜石では「祭り」の前の空気を味わった。いろんなスポーツの試合、否、「試合の周り」を見て回った。特に、いい意味の「ショック」を受けたのはバスケットだ。Bリーグ。すごい。やられた。いろんなことを考えさせられた。

私個人でいえば、自分でもプレーしてきたわけだから、競技としてはアイスホッケーのほうが面白い。でも、「会場に身を置くこと」の興奮度という点では、正直に言うと、アイスホッケーよりBリーグのほうが上だった。おそらくNBAを追いかけているファンからすれば、入場料を払ってまで…という競技レベルだろう。でも、Bリーグの会場に来ているファンからすれば、NBAと比べてどうかなんてまったく関係ないように映った。

インドアスポーツの強みである音響、映像。女子受けするスタグル。イケメンを活用したグッズ。ルールを、バスケをよく知らなくても、そんなことは問題ではない。入場料が少々高かろうが、それに見合う楽しみがあれば人は来てくれることを証明していた。

Bリーグの試合であらためて感じたのは、スポーツ興行における主役は、実は選手ではなく、チームでもなく、観客だということだ。勝つことはもちろん重要だし、素晴らしいが、それ以上に「試合はお客さんを楽しませるためにやっている」という意識。試合前も、試合中も、そして試合後も、場内のスタッフはもちろん、戦っている選手も、観客の存在を強く意識しているのが伝わってきた。

Bリーグの試合をいくつか見て、次に考えたのは、やはりアイスホッケーのことだった。男子はずっとオリンピックに出ていないとか、ランキングが下がったとか、NHLに比べてどうだとか、それは確かに正論だけれど、今の人気低迷は、実はそことは関係ないのではないか、と。

「アイスホッケーは一度見たらハマる」。この世界でずっといわれてきた言葉だが、実際はどうだろう。「今、目の前でプレーしているこの選手は、いったい誰なのか」。そんな状態で観客が試合を見ても、そこから熱や思い入れは生まれない。トキを楽しむことに意欲的になった今の人たちを満足させることができなくて、むしろ当然だろう。

一方で、やはりアイスホッケーは魅力的なスポーツで、競技の持つ面白さは地上最強だと私は思う。どうして、かつて代々木体育館を満杯にしたこの競技が、その熱を失ってしまったのか。人々の話題に上らなくなったのか。それは、競技そのものに魅力がないからではなく、試合よりも「試合の周り」の魅力の乏しさが障壁となって、特定のファン以外の人に「見てみたい」という意欲を沸かせるまでに至っていないからではないか。


「情報」で景色を変える。

プロ野球も、サッカーも、バスケットも、顧客や社会に対するアプローチはここ数年で驚くべき変化を遂げた。ファンサービスやグッズのバラエティ、場内のイベントは、本場といわれる北米と肩を並べたようにも思える。

「だって彼らには資金があるじゃん」。確かに、それは正論だ。でも、お金がそれほどなくたって(わがアイススポーツジャパンはそこには自信があります)限られた条件の中でも、できることは絶対にあるし、これまでアイスホッケーを知らなかった人にも「今度、見に行ってみよう」と思ってもらえる仕掛けをつくり出すこともできるはずだ。

たとえば「情報」は、その仕掛けのひとつだ。これから始まるこの試合には、どんな意味があるのか。両チームの選手はこの試合に、どんな気持ちで臨むのか。選手はどんな顔をしていて、普段は何をして過ごしているのか。好きな食べ物は。好きな女性のタイプは。どんな音楽を聴いて、どんな香水をつけて、どんな腕時計をして、地元のどんなお店に行くのか。情報を得ることで、見る側の肩入れ具合が違ってくるし、選手やチームと、人との距離感、すなわち今はまだアイスホッケーをよく知らないという人と、アイスホッケーとの精神的な距離は縮まっていくはずだ。

アイスホッケーは、それをまだ始めていない。昔は活気があったけれどもう終わった…のではなく、たとえばBリーグがお手本として示してくれた、新しい時代を迎えるためのアクションを起こしていない。「終わった」のではなく、まだ「始まっていない」のだ。バスケットが「見せ方」の手法を変えたのは、そのほうがベターだからではなく、これからの時代で生き残っていくためのマストだから。そうした事例を踏まえて、アイスホッケーが人気を獲得するための「正解」を皆さんとともに創出していくことが、アイススポーツジャパンの使命と考えている。もしよかったら、一緒に、できることから。それが私たちにとって、強い力になる。

さて、コラムタイトルの「Inter-Mission」は、本来は「Intermission」と続けるのが正しいのだが、少しだけアレンジしてみた。試合のピリオド間に仲間と売店に連れだって、コーヒーやビールを片手に会話を楽しむようなコラムに。ミッションというべき業務の合間に、ひと息入れつつ書くコラムに。そんな感覚で、無理することなく続けていきます。今回は一発目なのでけっこう長めになったが、次からはいくぶんコンパクトになる…はず。では、また。

アイススポーツジャパン代表 山口真一

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