スウェーデンに来た当初は、言葉や習慣の壁に悩んだときも。それでも、持ち前の探求心とポジティブな姿勢で、今はチームメイトとのコミュニケーションも円滑だ。


スウェーデンとフィンランドは、隣国ながらホッケースタイルが異なる。フィンランドはパスを回して選手がどんどんポジションを変えていきながらシュートコースをつくり、確実に決めていくスタイル。スウェーデンは北米に近く、フィンランドよりも個人のスキルを前面に出すプレーが多い。フィンランドとの国境が近く、フィンランド代表の中心選手も5人いるルレオでは、そのため従来のスウェーデンスタイルとは違う戦術を採用している。「自分でガツガツ行くというより、パス回しが好きな選手が多いですね。リーグの中でもフィンランドっぽいホッケーをしていると思います。フィンランドはパスを回しながら自分も動いてという感じなので、常にパックとパスラインが動いている。もし自分が相手チームだったら守りづらいだろうなと感じる動きをずっとしている印象です。私はパスを出した後に足が止まることが多いので、勉強になりますね」。試合の前には必ずビデオミーティングがあり、フォアチェックとブレイクアウトのシステムは対戦チームによって変えるのだという。

11月も終わろうかというある日、その前の試合ではスペシャルプレーで起用され、ポイントを挙げていたにもかかわらず、大澤は4つ目に落とされた。どうしてなんだろうと考えた末にたどりついたのが、「戦う姿勢が足りない」ことだった。

「私は、フェンス際でのパックの取り合い、流れて来たパックに対する競り合いで、相手に簡単にパックを渡してしまう場面が多かったんです。多かったというより、ほとんどそうでした。ゴール前でも同じで、体勢が崩れて転んでまでもゴールに突っ込むわけではなかった。でも、他の選手はみんな必死にパックに食らいついています。もともと日本でプレーしていたときも、がむしゃらさを出すタイプではなかったし、日本ではみんなより少しパワーやスピードがあったので、ちょっと頑張れば競り合いに勝てていました。でも、日本でやっていたときと同じようにここでプレーしても、勝てないのは当たり前ですよね。恥ずかしい話ですが、試合に出られなくなるまでそれに気づきませんでした。でも、気づいてからは、自分が試合に出られないことに対してすごく納得したし、これからやってやろうという闘争心が湧いてきました」

以後、大澤の練習のテーマは「バトル」になった。それでも、実際にそれを貫くのは簡単ではない。「今までそういう習慣がなかったぶん、まだ、すべての場面では出せません。でも、ここからだと思います。バトルを意識し始めてから、練習が毎回、試合みたいで楽しくなりました。練習だけど闘争心が湧いてきて、すごく刺激的なんです。正直、コンスタントに試合に出ていたときは、そこまでチャレンジできていなかった。練習ではミニゲーム的なものが多いので、どんどんチャレンジできる状況です。戦うことが自分の習慣になるように、まずはそこにフォーカスしていきたい。そういう気持ちになってからは練習がすごく楽しいです。スウェーデンに移籍した甲斐があったなって、初めて思うことができました」

NCAAレイクスペリオル大学でプレーする三浦優希もそうだが、日本では主力としてプレーしていたのに、海外では下のセットで使われ、ときにシフトされないこともある。日本でそういう経験がなかったぶん、当然、小さくない落胆がある。だが、海外でプレーする意味は、すなわちそういう経験をすることにある。日本では味わうことのなかった経験を通じて、新しい発見をする。挫折と向き合い、乗り越えることで得られる成長こそ、海外でプレーする意義なのだ。「ルレオでは今までとは違うホッケーに触れて、毎日が勉強です。本当に毎日、学ぶことがあるんです。トレーニングに関しても、オリンピックメダリストの選手が何にどう取り組んでいるのかを間近で見て、感じることができる。本当に刺激的ですよ。ホッケー以外の部分でも、文化や言葉、いろんなことを吸収できる。1人の人間として、たくさんの経験をさせてもらっています」

大澤にたずねてみた。スマイルジャパンのキャプテンで、日本ではトッププレーヤーのあなたが、ルレオでは試合に出られないこともある。恥ずかしいと思ったり、「まずい状況になったな」と重圧に感じることはありませんか、と。その答えは、実にシンプルなものだった。

「ここに来た理由は、ただただ単純に、1人の選手としてもっとうまくなりたいと思ったからです。私自身のレベルアップが、結果として女子アイスホッケーの発展につながっていくと信じて。現役選手でオリンピックを目指している今は、競技で結果を残していくことが一番だと思うし、その過程を後輩に見せていくことが私の務めです。日本代表になりたい、オリンピックに出たい、勝ち続けるチームでありたい。たくさんの選手にそう思ってもらえるように、女子アイスホッケーを引っ張っていける選手になれればと思っていますし、そのために自分に足りない部分を身につけたい。だから今、こうしてルレオにいるんです。もうすぐ27歳になりますが、この年齢でもまだ伸びしろがあると思っています。日本代表ではキャプテンでも、プレーでチームに貢献できる部分が少ない。もっとうまくなって、プレーで貢献できる選手になりたいんです」

冬のスウェーデンは、午前中は10時ころまで暗く、午後は2時を過ぎたあたりから日が陰っていく。ルレオの人口は4万人。ずいぶんと寂しい街だ。それでも男子のトップリーグSHLの試合にはいつも4000人以上が訪れ、大澤がプレーする女子リーグのSDHLでも、11月16日のレコードマッチには6220人がアリーナを埋めた。

この地に来て4カ月。大澤はまだ、ルレオの街を深くは知らない。家とリンクの間を行き来するだけの日がほとんどだからだ。日本では月に1回の大会に合わせて調整するが、スウェーデンは日本では考えられないほど長期間のリーグ戦で、練習やコンディショニングはチームに管理されている。しかも試合の合間には長距離の遠征がある。時折、「ちょっと練習量が足りないかな」と思ったときはトレーニングルームに足を運ぶ。食事は自炊なので、街に出て過ごす時間は多くない。

朝6時。氷上練習がある日、大澤はその時間に食事をとる。パンの日もあれば、ごはんの日も。卵料理と、ハムかウインナーと、ヨーグルト、バナナ、オレンジジュース。それを食べ終えたら歩いてリンクに向かう。苫小牧にいるときは、練習に行くのはたいてい車だった。今、住んでいる家からリンクまでは歩いて6分。夜明け前の街を歩いて練習に通うなんて、いつ以来だろう。雪を踏みしめると、ぎゆっ、ぎゅっと足音が響き、表面に靴の跡が残る。遠くにいるんだなあ、と大澤は思う。

初ゴールのシーン。ルレオはFWの層が厚く、日常の練習でチーム内の競争に勝たなければ、試合に出られる保証はない。

チームメイトとティータイム。試合や練習中は時にシビアな言葉が飛び交うが、氷を離れれば打ち解ける。これもまた海外ならではの貴重な経験だ。

ヨーロッパの中でも熱いサポーターが多いことで知られるスウェーデン。ストックホルムのユールゴーデン、AIKが特に有名だが、ルレオのウルトラもなかなかヤバい。

元のページへもどる