父親のメルさんが国土計画でプレーしていたころの「いい時代」、そして今の空気も肌で知っている若林監督。フリーブレイズでは、2009年のリーグ参戦時から指導にあたっている。


近年、学生のトッププレーヤーがアジアリーグを志望しない傾向が高まっている。現場を預かる人は、そうした状況をどのようにとらえているのか。かつてコクドでプレーし、SEIBU最後の優勝監督を務め、ゼロから立ち上がったフリーブレイズでもチームを優勝に導いてきた若林クリス監督に、大学生について、さらにトップリーグが今すべきことについて聞いてみた。このインタビューを収録したのは、全日本選手権の開幕前日(12月13日)。大会後に日本製紙クレインズの今季限りでの廃部が発表された。〈聞き手・構成/山口真一〉

――いま、特に大学生プレーヤーにとって、トップリーグに進むことが必ずしも第一希望にはなっていません。少子化による働き手不足、いわゆる「売り手市場」なので大手企業からの求人も多く、一方でアジアリーグの現状を勘案すると、アイスホッケーの世界に飛び込むことにためらいがあります。

若林 そういう状況になったということに、リーグとして危機感をもたないといけないと思います。もちろん連盟もそうですよね。A代表、U20というチームが組まれますが、トップの選手がホッケーを続けないという環境になれば、世界で戦うことが難しくなる。魅力的なリーグ、みんなが「行きたい」と思えるようなリーグにしていかないといけないと思います。

——選手にもいろいろな考えがあるように、アイスホッケーの周りにいる人たちも、必ずしも考え方、方向性が一本化されているわけではありません。

若林 まず、みんなが同じ方向を向かないといけないと思います。たとえばアジアリーグには日本の4チームがありますが、その4チームが同じ考え、同じ方向かというと、そうでもないと思いますし。

——今のアジアリーグには、昔ながらの実業団とプロチームが混在しています。運営目的が違うわけですから、確かに方向性のすり合わせは難しくなりますね。

若林 はい。どちらが正しいとかではなく、向いている方向が違うから難しいんです。まず、トップリーグのチームが地元でもっともっと愛されるように、そして子どもたちがアイスホッケーを始められる環境をつくっていかないと。それを4チームのホームタウンで始めて、周りの地域に広げていければ。トップリーグの魅力を高めていきながら、アイスホッケーというスポーツが身近にある環境をつくらないと。これは私の考えですが、もともとアイスホッケーの人気がある地域だけじゃなくて、全国的にアイスホッケーを広く、浅く…もちろん浅いのがいいというわけではないんですが、全国に広げていかないといけないと思います。

——リーグを百貨店にたとえていうと、チームは毎年、何億円ものお金と莫大なエネルギーを使って商品をそろえてテナントを出しているのに、百貨店自体が集客できなければ、当然、テナントを出しても商品は売れません。

若林 現場は、チーム単体でそれぞれのミッションに向かって努力しています。どのチームもみんな頑張っているのは間違いないんですけど、その努力がうまく融合されていないですね。

——ある学生がこう言っていました。「奨学金を借りて進学したので返さないといけない。だから、本当はアジアリーグを目指したいけど目指せないんです」と。チームや契約形態によって条件はまちまちだと思いますが、学生に情熱がないわけではないんです。一方で、一般企業は人を集めないといけないので、必死に学生をリクルーティングしている。アジアリーグのチームも、けっして給料をケチっているわけではなく、それができない現状があるわけで。

若林 対価というものに対して、みんな価値観は違うんでしょうけど、限られた予算の中で人件費が決まります。チームが成り立っていく上でバランスも考えないといけない。ただ、たとえばあるチームの給料が、一般就職した場合より安いというケースがあったとして、プロのアイスホッケー選手としてのやりがいとか、価値とか、そういうものがあれば、トップリーグに進む方向に動いていくと思うんです。もちろん、全員がそうではないとも思いますが。でも、トップリーガーとしての価値が認知されていないというのが、日本の弱いところだと思います。

——アジアリーグができて16年目。学習するには十分な時間があり、それでいてなぜ、こういう状況なのでしょう。

若林 アジアリーグという組織自体、単体の会社にならないといけないでしょうね。今は各チーム、各企業から事務局に派遣する形で成立している。そういうスタイルで失敗した競技の例もありますし、もうちょっとこう、ひとつの組織としてやっていったほうが、いろんなものが生まれてくるんじゃないかなと。スポーツビジネスも北米、ヨーロッパに比べると遅れています。ただ、アジアリーグの特性というか、日本だけではなく、いろんな国が入ってくるわけじゃないですか。日本国内という部分を固めつつ、アジアリーグもやっていくというのが、ひとつのやり方ではないかと個人的には思います。

——サッカーとバスケットのトップリーグは、日本のスポーツに大きなことを教えてくれました。サッカーは、かつて選手権(高校サッカー)やトヨタカップくらいしかスタンドが満員にならなかったのが、Jリーグが「トップリーグの繁栄こそが競技力向上につながる」ことを教えてくれた。Bリーグは、こういっては失礼ですが、競技力が国際的にみてどうであれ、アリーナの中を演出することでファンは増やせることを証明した。そして男子バスケットはその流れに乗って実力を上げています。

若林 たぶんアイスホッケーって独特で、地域スポーツとして歴史を重ねてきたから、理想が高すぎるのかもしれないですね。私はフリーブレイズに入る前にコクド、西武という企業スポーツを経験させていただいた。歴史が新しいチームでやっていくうちに、うまくいかないことも出てきて、じゃあ次はこうしていこうというのを重ねてきたんです。否定から入るのではなくて、アイスホッケーが置かれた立場からしてみれば、いろんな可能性にチャレンジしていくべきだと思うんです。変な話、もう失うものなんかないくらい落ちているわけじゃないですか。そこはもっとチャレンジしてもいいのではないかなと。

——確かにアイスホッケーって独特です。みんな「新しいことを」「変えなくては」と言っているのに、いざ本当にアイスホッケーを変えようとする人が出てくると、否定から入ります。最初からうまくいくはずなんてないのに、けなして、ケチをつけて、人によってはそれを文字にして発信する。それがどれだけアイスホッケーの発展を妨げているか。

若林 アイスホッケーを良い方向に変えていくといっても、やはり生活を考えると、限られた人になってしまうと思うんです。もっとたくさんの人数を巻き込んで、最初は少しずつ。そういうやり方でないと難しいのかなと思います。私自身でいうと、日本リーグ、アジアリーグの現場にいて実感としたというか学べたと思うのは、勝つだけじゃダメなんだということです。もちろん、試合に勝たないといけないというのは前提としてあるんですけど、勝ちを目指しながら、ファンをいかに増やせるか。もちろん会場に来ていただくファンもそうなんですが、日ごろ生活していく中で接触する人たち、たとえばフリーブレイズのロゴの入った服を来て八戸の街に出たら「ああ、フリーブレイズの人だ。あのチームはいいよね」って。ホッケーを知らなくてもフリーブレイズのことを知っているとか、好意を持ってくれるように、そういう価値をつくっていかないといけないと思うんです。そして、それが多ければ多いほどいろんなものにつながっていく、相乗効果で大きくなっていくと思います。八戸は来場者が年々、増えてきているんですよ。少しずつですが、自分たちがやってきたことはつながっているのかなと。でも、まだまだこれからですが。

——この状況下で来場者を増やしているというのは、お世辞抜きに驚きですし、評価されるべきことです。

若林 フリーブレイズは、選手が本当に頑張っていると思います。地域貢献活動、幼稚園や小学校への訪問、スケート教室とか、営業の面もそうですし、若い選手のSNSもそうですし。選手自身が動くことでチームの好感度は上がるんですよ。皆さんに応援したくなる気持ちになってもらって、それが次に、選手のプレーの向上につながっていく。選手たちも最初は半信半疑でやっていたと思うんです。でも、実際にファンの人が増えてくると「ああ、やってよかった」とか「こういうふうに結果につながっていくんだ」と。そうなると今度は、来てくれたお客さんにもっともっといいプレーを見てもらおうと思うようになる。

——「勝つことが最高のファンサービス」。スポーツの現場にはそういう観念が根強いですが、クラブ(チーム)やリーグの運営でいうと、いかにお客さんを呼ぶか、楽しませるかだと思います。失礼ながら今、フリーブレイズは上位ではないですが、それでもスタンドに活気があるということは、「あの選手が好きだから」「このチームが好きだから」来てくれる人が多いということであって、「あの選手が好きだから会場に行く」というファンが選手1人あたり100人いれば、それだけで2000人が来ることになりますよね。

若林 そうなんですよ。だから、選手はそういう魅力を持った人間にならないといけないと思います。結局、「人」と「人」なんですね。人の心を動かすのは、最終的には人なんです。だから人間形成が大事ですし、それがチームのビジョンとしてうまくいけば、素晴らしいものにつながっていくと思います。現場の監督としては、もちろん勝ちを目指します。1試合、1試合、全力で勝たないといけないというのはプロとして妥協してはいけないんですが、ただ「勝つ」だけで終わってしまうと、成長の効果が薄いんですよ。試合に勝って、会場に来てくれたお客さんだけが「昨日の試合はすごかった」と思ってくれるのではなくて、その日は会場に来ていなかった人たちにもタッチしていくことができれば、そういうムーブメントが自然と起こると思います。特に八戸はアイスホッケーの歴史が深い街ですので。

——アイスホッケーはスピードとか迫力とか、競技の魅力に頼ってきた半面、「人」にフォーカスしてこなかった。アイスホッケー選手として日本人が一番多く思い浮かべるのは、男子は木村拓哉で女子は佐藤つば冴でしょう。アイスホッケーは、もっと「人」の魅力を前面に出すべきですよね。Bリーグがそうですし。

若林 そうですね。フリーブレイズも「人」というところを重視して育成プログラムをやっています。それを日本全体で、ジュニア時代からそういう意識をもってやっていければ、日本のアイスホッケーは必ず良い方向に変われると思います。

元のページへもどる