プレースタイルだけでなく、考え方においても「適応」が大事だという平野。その積み重ねが、今回のAHL契約につながった。〈写真提供/Zack Rawson〉


「平野裕志朗、AHLペンギンズと契約」「夢のNHLへ大きな一歩」。1月13日、一般メディアを含めて報じられたニュースは、暗い話題の多かった日本のアイスホッケーを明るく照らした。帯広・白樺学園高3年時には、キャプテンとして八戸インターハイで優勝。スウェーデン・ティングスリードのスーパーエリート、USHLヤングスタウン(アメリカ)と海外のジュニアリーグでプレーした後、フリーブレイズを昨秋退団、新たなプレー先を求めて再び海外へ渡った平野。いま彼は、世界基準のどのあたりを走っているのか。ECHLウィーリングでプレーする本人にたずねた。〈聞き手・構成/山口真一〉

——夏までは日本で社会人チームの練習に乗って準備し、渡米。現在は野球でいう2AにあたるECHL(イースト・コースト・ホッケー・リーグ)のウィーリング・ネイラーズでプレーしています。どういう経緯でここにたどり着いたのでしょう。

平野 詳しくはあまり言えないのですが、今までのコネクションが支えになりました。日本語読みだとホイーリングと言われることが多いのですが、正しくはウィーリングです。

——ECHLのレベルは日本であまり知られていなくて、私も現地では1試合しか見たことがないのでよくわかりませんが、アジアリーグっぽいというか、テクニシャンが多い印象を受けました。

平野 どのくらいのレベルかって聞かれると難しいですね。それって感覚的なものなので。どのリーグがどれくらいのレベルなのかは、それぞれを経験した人にしかわからないものなのかなと思います。言葉で表現するのはなかなか難しいです。これまでもアメリカやスウェーデンでプレーしてきましたが、やはり海外の選手たちってアジアリーグを下に見ているんですよ。「アジアリーグってどのくらいのレベルなんだ?」と聞かれることが多くて、私はそれが悔しくて仕方なかったです。下に見られているっていうことがわかるから。AHLはプレシーズンの2試合しか経験していませんが、ECHLもレベルは高いと思います。NHLで100試合以上プレーした選手もいますし、なかなか激しい世界ですよ。

——日本で報道された内容を見て、今すぐ平野選手がAHLでプレーするように思っている人がいるかもしれません。どんな内容のコントラクトなのでしょう。

平野 簡単にいうと「AHL選手レベルの契約」ですね。アフィリエイトのチームにコールアップされれば、いつでもそのチームでプレーできる資格を持っているということです。アフィリエイトのトップにNHLのピッツバーグ・ペンギンズがあり、その下のAHL(アメリカン・ホッケー・リーグ)がウィルクスバリ・スクラントン・ペンギンズです。私はシーズンの残り期間、ピッツバーグ・ペンギンズの組織(AHL、ECHL)に所属し続けることができるという契約内容ですね。ひと口に「契約」といってもいろいろな形があるんですよ。ほとんどの選手はECHL契約で、ほかに「AHL two way」というものもあります。AHLでプレーすればAHLレベル契約、ECHLでプレーすればECHL契約と、シーズン中に給与が変わったりもします。今回、私が結んだのはAHL one way契約。つまりECHLでプレーしていても、AHLレベルの契約のままプレーできるということです。

——平野選手の特徴はシュートスピードであり、シュートの強さです。ECHLでは時間の経過とともにポイント、特にアシストが多くなっている印象ですが(1月19日現在、35試合10ゴール18アシスト)、何か「つかんだ」ものがあったのでしょうか。

平野 対応力とスマートさですね。そして一番は「自信」です。シーズンスタートの時点では、チームのやり方、このリーグのプレースタイルに私はなかなかついていけていなかったんですが、今は勝負するところ、しないところの使い分け、相手の動きに対応することができています。自分自身のプレーに対して自信を持ってやっているのが一番だと思います。シーズンがスタートしたころは、ミスしたら試合に出られなくなるんじゃないか、みたいな不安が心のどこかにあったのかもしれません。それを乗り越えた自信が、今の結果につながってきているのではないかと思います。

——夢のNHLへ。AHLにつながるコントラクトを得た今、そういう見方がどうしても強まってきますが、スタンドから見るぶんにはAHLも相当にハイレベルです。平野選手自身、NHLが見えてきたという実感はありますか。それとも、実際にそういう世界に身を置いているからこそ、かえって遠く感じますか。ここからさらに上に行くためには、自分に何が必要だと。

平野 一歩ずつ近づいている実感はありますが、だからこそ層の厚さをかなり感じています。さらに上に行くためには、「結果」の2文字が求められますね。それと、誰もが見ていても安心できる選手、つまりミスの少ない選手になることがカギだと考えています。

——プレーするステージがECHLになったことで、自分のスタイルを変えた部分はありますか。

平野 どんな状況にも対応できる選手になろうと心がけています。確かにシュートには自信がありますが、1つの長所だけで上に上っていける世界ではないですから。運動量もかなり増えていると思いますし、守りも攻めもできる選手を意識していることが、アシストの数につながっているのかなと思います。ただ、その中で自分の武器であるシュートを光らせていきたいとも思っています。

——背番号について。白樺では「9」を背負っていましたが、今の「9」はそこに由来しているのですか。

平野 そうです。白樺の時の背番号です! 小学生のころの番号が「9」だったんですよ。父の平野利明が古河電工で3番をつけて、叔父の克典が王子で33番をつけていたので、すべての数字を足して「9」にしました。父と叔父を追い抜く選手になりたいという意味もあったと思います。

——白樺を卒業して1年目、2014年の冬です。ティングスリードで会った時に、あなたは「平野は高校を出てから海外に出たので通用しないとネットで書かれたんです。そういう人を見返すのが今のモチベーション」と言っていました。試合後、湖沿いのバス乗り場まで見送りに来てくれて、そのときに私は「世の中には何かをやる人間と、それを見て何かを言う人間の2種類しかいない。何かをやる人間が世界を変えていくのであって、行動する人の悪口を言っている人間のために生きる必要はないよ」と言ったのですが、覚えていますか。

平野 はい。今は、良い意味で周りの声を気にしないことも必要だと思っています。1人のプロスポーツ選手として、応援してくれる人とそうではない人がいると思いますが、すべての人の言葉を私の原動力に変えています。自分の活動を通して勇気や感動を受け取ってもらい、それで日本のアイスホッケー界が良い方向に進むのであれば、全力で一歩を踏み出していこうという気持ちで戦っています。

——「アイスポ!」はオープン以来、大学生・高校生に向けてのメッセージ発信を初期段階の目的にしています。日本ではクレインズが廃部を発表したりと、若い選手が将来に夢を描けないでいますが、彼らに伝えたいことはありますか。今のあなたの言葉には、十分な説得力とメッセージ性があるはずです。

平野 「誰かがやってくれる」。それじゃあ、もったいないと思います。学生だからとか、立場は関係なく、「私が変えてやるんだ」という気持ちを少しでも持っていたほうがいいと思いますね。これから何が起こるか、それは誰にもわかりません。でも、今、自分の一歩が将来のアイスホッケー界を大きく変えるかもしれない。それが海外に出ることなのか、アジアリーグに入るために努力することなのか、社会人をはさんでプロになるチャンスをうかがうのか、正解と呼べるものはありませんが、何も考えずに過ごすのと、何かを考えて行動するのとでは、同じ時間を過ごしていても未来が変わってくると思います。自分がどうなりたいのかを考えれば、すべきことは自然と見えてきます。日本のアイスホッケー界を変えることができるのは、他人だけではなく、自分も含まれていること。そう考えて行動することが、道を切り拓くカギだと私は思います。

持ち前のシュート力を発揮するだけでなく、周囲の選手を生かすことでアシストも増えている。オールラウンダーとしてスタッフの信用を勝ち得ることが、さらに「上」へとつながっていくと平野は考えている。〈写真提供/Zack Rawson〉

PROFILE

ひらの・ゆうしろう

ECHLウィーリング・ネイラーズFW。北海道苫小牧市出身。1995年8月18日生。苫小牧緑小、和光中から白樺学園高に進み、スウェーデンU20スーパーエリートのティングスリードAIF、USHL(アメリカ)のヤングスタウン、アジアリーグの東北フリーブレイズを経て今季、ECHLネイラーズのトライアウトに合格。今月、ペンギンズのアフィリエイトAHL契約を勝ち取った。

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