この3月に巣立っていった中央大学のメンバー。左からFW高見悠斗、DF蓑島圭悟、FW沖澤拡、キャプテンのFW佐藤優樹、GK金子将太朗、FW矢野倫太朗、DF渡邊謙太。最後のインカレでは、3位決定戦を勝利で終えた。


問題から目をそらしても解決しない。

11月、チームの夏合宿を前にフィンランドに渡ったDF蓑島圭悟が日本に帰ってくることになった。それはちょうど、関東大学リーグ戦の優勝をめぐって総当たりで戦う順位決定リーグを直前に控えたタイミングだった。その時点で中央大学は4位。優勝の可能性は消えていた。

当時の取材ノートをめくると、蓑島の復帰について選手の反応がまちまちだったことがわかる。「インカレに向けてのきっかけに」と受け止めた選手。「微妙な空気が流れるんじゃないか」と思っていた選手。「チームを離れていたことには納得していないけれども、勝つために彼の存在は必要」と考える選手。その段階でいえば、チームがどんな方向に向かっていくのか、はっきりとわかっている者は1人もいなかった。

ナショナルの欧州遠征に参加した蓑島が日本に戻ってきたのは11月13日。その日、東京・八王子市の合宿所では、4年生同士が意見をぶつけ合った。そして翌日は、チーム全体でのミーティング。選手同士が思いを包み隠さず語り合ったことで、「わだかまりはなくなった」と、引き続きキャプテンを務めることになったFW佐藤優樹は言った。

思っていることを言葉にする。それを経て、最終的に組織をプラス方向にもっていく。それは大人の社会においても難しいとされることの1つだ。大学アイスホッケーにも「あいつは何を考えているのかわからない」と言う選手がいて、だったら話し合えばいいのにと言うと、「いえ、言ったところで聞かないので」というケースがあるが、中央の4年生は会話をせずにうやむやにすることを良しとしなかった。問題から目を背けたところで何も解決しないことを知っていたのだ。試合中にもめごとがあった日も、蓑島が戻ってきた日も、話し合うことによって結束を強めた。「自分のアイスホッケー人生の中でもこういうシーズンはなかったですが、きちんと話し合ったことはよかった。溝は残らなかったと言いきれますし、それがリーグの後半戦につながった」と佐藤は言う。

蓑島が加わった順位決定リーグ。中央の優勝の可能性はなく、それでも中央はどこより強かった。初戦の早稲田戦は終了72秒前に決勝点を奪われて敗れたものの、逆転で優勝を飾った明治、そしてリーグ後半はほぼフルメンバーが揃った東洋には、いずれも1点差の接戦ながら競り勝った。

中央の試合運びで目を引いたのは、蓑島がフィンランドから持ち帰ったホッケー、すなわちDFからの球出しから前線まで時間をかけずに最短、最速で敵陣まで攻め込むスピーディーな攻めだ。リンクを囲むボードを使って前へ、前へとパックを運んでいく。これにより、もともと足のあるFW陣が生かされた。選手も、ベンチ外も、それぞれの持ち場でベストを尽くす。本来のチームカラーを取り戻し、リーグ戦期間中には消えかかっていたインカレ優勝の可能性に現実味が加わった。実際、迷走していた時期には、インカレのことを口に出せる空気はなかった。インカレ優勝が可能だと思っていたのは、叶多くらいだっただろう。

迎えたインカレ。しかし中央の希望は、東洋との準決勝で絶たれた。ともにリーグ戦後半から調子を上げたチーム。試合序盤、中央は点が入りそうで入らず、先制点を奪いはしたものの連続得点が奪えない。点差を「2」に広げられないボタンの掛け違いは、3ピリに目に見える形で現れた。8分からの10分間で3失点。戦い終え、相手チームへのあいさつが終わると、選手は立ち尽くし、膝を折り、ベンチで呆然と宙を見つめた。

準決勝を終えると、どの選手も涙を浮かべていたが、4年生の中で特に肩を落としていたのは佐藤とGK金子将太朗だった。「引かずに自分たちのホッケーをやったつもりですが、キャプテンとしてチームを勝たせられなかった。本当にこれで終わりなのかなって、今は実感がわきません」と佐藤。金子の目からは涙が止まらなかった。「なんつうんだろ、悔しいというか、後悔というか、もっとできたんじゃないか、ずっと続けてきたホッケーがこんな形で終わっていいのかって。決勝まで行くチームを4年生がつくれなかった。これまでは負けても次があったけど、もう次はない。あっという間の4年間でした。今は、終わってしまったという実感がないです」

4年間の思いが凝縮された3位決定戦

大学4年目の終わりは、多くの選手にとって「競技」としてのアイスホッケーの終わりを意味する。佐藤、金子ともに「終わった実感がない」と口にしたが、実際、彼らはこの試合で終わりではなかった。ほんの少しかもしれないが、準決勝翌日の3位決定戦が心の穴を埋めてくれた。「消化試合」などではなく、次に向けての一歩目を記す60分になった。

2ピリ18分、先制ゴールを挙げた沖澤拡は、4年目のシーズンは自分の意欲をいかに高めていくかで悩む日々だった。「僕がなんで中央に来たかといったら、1コ上の小泉(智也)さん、脇本(直迪)さんとホッケーがしたかったからです。コマザワ(駒大苫小牧高)時代、先輩が3年生の時にインターハイ初戦敗退というつらい目に合わせてしまった。だから大学で一緒に優勝したいと思って、僕が3年生だった1年にかけていたんです。でも、やっぱり優勝できなくて、残り1年、何を目指して過ごせばいいのかなって。でも、やっぱり先輩たちのために頑張ろうと。僕らがインカレで優勝すれば、先輩たちが喜んでくれると思いました」。感極まり、話しているうちに大泣きした沖澤。白鳥アリーナに駆け付けた先輩に、その思いは届いただろうか。

同じくFWの矢野倫太朗は、蓑島がフィンランドに渡っている間、そして佐藤がケガで欠場している間、キャプテンマークをつけた。その矢野が2ピリ14分、体を張った「らしい」ゴールで2点目を挙げる。「4年生にとって、この1年は苦しいことばかりの毎日でした。中央が勝てない理由は4年生にあるといわれて、すごくつらかった。でも、少しですけど、これまで頑張ってきたことが今日、報われた気がします。優勝という最高の形では終われなかったけど、笑って終われたので」。前日に見せた涙はなく、静かに喜びをかみしめた。

3点目のゴールを決めたFW高見悠斗は、4年目になってベンチから外れる試合が続き、一時は退部を考えた。それでもリーグ後半から気持ちを立て直し、インカレ前の合宿では、練習最後のダッシュで先頭を走り、蓑島の言葉を借りれば「チームで一番、気合が入っている選手」だった。「いろんなことがあった1年でした。最後、優勝して終わりたかったですけど、勝つことって難しいんだなと。でも、もしホッケーをやめていたら、今日のゴールもなかった。最後まで続けてよかったと思います」。ゴールを決めた後の派手なガッツポーズは、心の中にたまっていたものをすべて吐き出しているように見えた。

そして4点目、2018-2019シーズンにおけるチーム最後の得点を挙げたのは、キャプテンの佐藤だった。「昨日、準決勝で負けた後は、悔しくてなかなか眠れませんでした。なんで負けたのかな、やり残したことがあったのかなって。でも、今日はチームがよくまとまっていたと思います。みんな自信を持ってやっていた。悔いはありません」

その佐藤の得点をアシストしたのは、1年生の春に新人王を獲ったDFの渡邊謙太だ。「最後の1年はいろんなことがありましたが、インカレは4年間の思いをしょって頑張ろうと思いました。今日は4年生全員がゴールかアシストを決めたし、最後に4年生同士でリンクに立っていられた。中央に来てよかったと思いました」

渡邊によれば、この学年は「本当によくケンカした代」だという。「たわいもないことで、すぐ殴り合いです(笑)。特にコイツとは、しょちゅう殴り合ってました」。視線の先には佐藤がいた。「この4年間、家族が増えたみたいで楽しかったです。ケンカもしたけど、家族だからケンカしたんですよ」。フレディ・マーキュリーのようなヒゲ面で渡邊は言った。

試合でもめごとが起きても、誰かがいっとき戦列を離れても、帰る場所はひとつ、チームしかない。その日に何があっても、夜になれば合宿所に戻り、ひとつ屋根の下で眠りにつく。朝が来れば、また新しい一日の始まりだ。何があっても、どれだけ嫌な思いをしても、家族であればそれを乗り越えていかなければならない。彼らは話し合いを通じて、ケンカを通じて、家族になった。インカレでしっかり「泣く」ことができた。

3月25日、中央大学では卒業式があり、7人がそれぞれの道に分かれた。7人の中で一番最初に進路が決まり、本来であれば日本製紙クレインズのユニフォームを着るはずだった蓑島は、八王子の合宿所を引き払い、東伏見に部屋を借りた。この学年で唯一のプロのホッケーマンとして、いろんなチームの練習に参加して技術を伸ばすためだ。

誰でも、どんな組織でも、うまくいかないこと、コントロールできないことは起こる。しかし、そこから逃げていては前に進めない。7人の「元4年生」は、きっとこれからも目の前の課題と向き合い、乗り越えていくだろう。4月6日、新1年生を迎えたチームが始動する。このチームにこれから何が起こるのか誰も想像することはできないが、何があっても、そこから目を背けることはないはずだ。問題から逃げずに、向き合う勇気。7人が残した伝統を胸に。

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