9月28日の中央戦では、同じ4年生ゴーリー・合田聖との我慢比べを2-1で勝ちきった。「頑張っている姿を見ているからチームメイトも何とかしようと思ってくれるし、運も味方してくれる」と、内藤監督からも称賛の言葉が。


あの試合はいったいなんだったのだろう。不思議な感慨とともに記憶に刻まれる試合が、シーズンには何度かある。昨シーズンの関東大学リーグ戦でいえば、ディビジョンⅠ・グループA(1部リーグA)の最終戦、早稲田-明治がそうだった。

2018年11月25日、順位決定リーグ最終戦。総当たりの2回戦を終え、上位4校がさらに総当たりでぶつかる最後の一戦だ。この試合に勝ったチームが優勝というシチュエーションで、開幕以来1位を一度も明け渡さなかった早稲田は、2年連続で大学3冠を達成している明治と対戦。第1ピリオドに4連続失点を喫し、1-7のスコアで敗れた。早稲田の当時のキャプテン・鈴木ロイ(現フリーブレイズ)は「明治とは何度やっても負けない」と公言し、2次リーグまで2戦2勝。ところが順位決定リーグでは、早稲田は初戦で中央に辛勝(2-1)したものの、東洋戦を2-6で落とし、続く明治戦でも大敗した。開幕して2カ月半トップにいた早稲田が、「あと1つ勝てば優勝」という局面で連敗。明治とすれば、最後の1日だけ首位に立ってゴールインという「超」逃げ切りだった。

早稲田の先発ゴーリーを任されたのは谷口嘉鷹。素晴らしい、秀でたという意味を持つ「嘉」に「鷹」と書いて「かよう」と読む。今季、最終学年の4年目を迎え、アイスホッケー部門を含むスケート部の総合主将を務める。

あの明治との試合で、谷口は1ピリ7分に1点を失い、その後は11分、13分に連続失点。3点目を奪われるとサブの村上隼斗と交代し、試合終了の瞬間をベンチで迎えた。「僕を含めて、この試合に勝てば優勝という場面を早稲田の選手の大半が経験したことがありません。明治は逆に、大舞台の経験を持つ選手がほとんどです。ウチは気持ちの面で引いていたし、勝ち慣れているか、そうでないかの差が出たと思います」と谷口は言う。

あの日、谷口のポジションは下がり気味だった。ハンドリング、シュートタイミングのうまさが光る明治FWを前に、気持ちで引いて、体も下がっていたのだ。「自分の技術に自信がなかったから、自然と下がっていたんだと思います。特にキャッチングに自信がありませんでした」。2年時までは、シュートを捕り損ねてリバウンドをたたかれるケースが多く、一部のファンから「嘉鷹サスペンス劇場」ともいわれた。ゴール前の混戦は、観客席から見ればスリリングだが、チームとしては心もとない。

リーグ戦を終えてチームがインカレに向けてリスタートする中、GK出身の内藤正樹監督のもと、谷口はもう一度、基本技術を見つめ直した。「すべての面でレベルアップしてもらう必要はありましたが、まずはキャッチングの部分から1つずつ直していきました」と内藤監督。おかげで「左手の守備範囲が広がったと思いますし、キャッチングに自信がつきました。そのぶん、前に出ていけるようになりました」と谷口は話す。事実、1月のインカレでは明治と準々決勝で対戦し、ゲームウイニングショットで敗れたものの、3ピリ終了時点で3-3と成長の跡を示している。

「早稲田のGKは他の上位校と比べて独特なんです」と谷口は表現する。「上位校の中で早稲田の被シュート数はダントツで多い。だから、いかにリバウンドを出さないか、たたかせないかという技術が他校のGKよりも求められるんです」。今の目標は、早稲田のGKとしての技術を確立し、それを2学年下の村上と共有していくことだという。「僕は早実出身なので、相手よりたくさんシュートを打たれることにも慣れています。でも、村上は駒澤(駒大苫小牧高)で、ほとんど格下と試合をしてきた。早稲田のGKに求められる仕事を僕が試合で示して、彼に見せていけたらと思っています」

あの明治戦から10カ月が経過した今、谷口はあらためて「あの試合が僕を成長させてくれた」と振り返る。とはいえ、あの日から明治には一度も勝てていない。4月の秩父宮杯でも決勝リーグで対戦し、1-4で敗れている。

10月5日、17時半。早稲田は今秋のリーグ戦で初めて明治と対戦する。1部Aは現在、早稲田と明治、そして春王者の東洋が5勝1敗、勝ち点15で並ぶ混戦。早明ともに、勝ち点をしっかり取っておきたい試合だ。早稲田はおそらく、谷口がスタメンでマスクをかぶるだろう。試合を終えた彼は、どんな表情で、何を話すのか。自分を「前へ」向けさせてくれた明治に、彼はまだ本当の恩返しをしていない。

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