アイススポーツジャパンに新しい仲間が加わりました。北海道在住の大窪映利佳です。
11月24日、新横浜スケートセンターで行われたアジアリーグの試合が「アイスポ!」では初の試合リポートになります。
平面のアイスホッケーから見えた「豊かさ」。
Text/Erica Ohkubo
11月23日。北海道の栗山(くりやま)という町から、朝早く飛行機に乗って、私は羽田空港に降り立った。
目指したのは、KOSÉ新横浜スケートセンター。
王子イーグルスvsひがし北海道クレインズの横浜シリーズ1戦目。
その日は私の誕生日で、ホッケーリンクでその日を迎えたかったのだ。
前売り入場券に刻印された指定席に座ってみて、驚いた。
過去に一度だけお会いしたご婦人と、席が隣同士になったのだ。
新横浜のリンクには、1,406席の固定席がある。
通路ですれ違うような偶然はもしかするとあるかもしれないが、指定席で偶然隣り合わせになる確率は、そう高くないのではないだろうか。
そのご婦人と出会ったのは5月18日、東伏見のダイドードリンコアイスアリーナ。
日本製紙クレインズ存続のための署名活動でたまたま行動を共にし、名前も連絡先も聞かず別れたのだが、まさか、その人と半年後に再会し、プロチームとして生まれ変わったチームの存続を喜び合うとは。
そしてそれが、私の誕生日と重なるとは。
アイスホッケーの試合に足を運ぶようになってからまだ1年も経っていないが、リンクに行くと、これは奇蹟に導かれたのではと思うことがたびたびある。
翌11月24日、私は初めて「取材」という名目でリンクに足を踏み入れた。
前日とはホームが入れ替わり、クレインズvsイーグルスの2戦目。
観戦したのは、傾斜のあるスタンドではなく、角度のないリンクサイドだ。
平面上から見るアイスホッケーは、すべてが横一列に見える。
真横から見てるんだからそりゃそうだろう、という視覚的な話ではなく、リンクに立つすべての選手が横一列に見えたのだ。
選手が日々積み重ねた努力、技量、勝つことへの執念。それらが一直線上に等しく置かれているように私には見えた。そして、それらが激しくぶつかり合い、勝敗が振り分けられていく。
普段、1人のファンとして試合を見る時は、傾斜のある観客席にいる。
その日、動きが良さそうな選手、役割に徹し、チームに貢献する選手など、試合展開が見えやすい。俯瞰して見ることで、視野を広く保てるのだろう。
しかし、「平面のアイスホッケー」からは、俯瞰して見えるものとは違うものが見えた。
スーツを着たチーム関係者が、腕組みをして、仁王立ちで戦局を見つめていた。選手がゴールを決めると大きくガッツポーズをして、何かを叫ぶ。その姿を間近で見て、リンクの外にいても、心は氷上で戦っている人がいることに気づく。
ゴールに一番近いリンクサイドで立ち見をしていた若い女の子のグループは、初めて一緒に観戦に来た友人にルールをレクチャーしていた。
リンク上で何が起きているのか、それを解説する人がいてくれるおかげで、初めてホッケーを見に来た人も楽しめているようだった。「あの人、かっこいい」。そんな興味が芽生えていたので、次戦も見に来てくれるかもしれない。
インターバルの合間には、場内をあちこち移動すると、もぎったチケットの半券を集計する女性を見かけた。
彼女もまた、クレインズの署名活動で東伏見で出会った友人だ。
9月、苫小牧での試合で偶然再会し、それから連絡を取り合うようになった。再会したその日、「チームが存続することが出来て本当に良かった」と、彼女は目を潤ませていた。
その9月にも思ったことだが、今回、横浜でも同じことを思った。
「アイスホッケーは、すでにたくさんの豊かさを持っているのではないか」ということだ。
新横浜のリンクの前にできた、長い入場列。チームと同じ心で戦う人々。氷上でひとつのパックを追う、選手ひとりひとり。みんな、その豊かさの一部だ。
豊かさがないところに、人は集まらない。今こうして、私がここでこれを書いているのも、その豊かさに魅かれてのことだ。
その豊かさを今よりもっと多くの人と共有したい。
だから、私は多くの人の話を聞き、それを出来るだけ遠くまで届けようと思っている。たとえ下手くそでも、嘘のない矢を。