アイススポーツジャパンの新しい仲間、大窪映利佳の釧路インカレ・リポートです。彼女自身、フィギュアスケートの現場取材はこの大会が初めて。女子シングル優勝の横井ゆは菜選手(中京大学)にスポットを当てた、フレッシュな視点でのリポートをご覧ください。


氷都に悪女が舞い降りた

1225日開幕のアイスホッケー競技から始まったインカレも、いよいよ終盤。月6日、フィギュア女子7、8級クラスに出場した横井ゆは菜は、ショートプログラム(SP)『黒い十人の女』で憎めない悪女を演じた。

奔放さと妖艶さが入り混じる豊かな表情、コンパクトを片手にお化粧をするコミカルでわかりやすい振り付けや、会場から自然と手拍子が沸き起こる後半のアップテンポな曲調など、とにかく見ていて飽きない。不意打ちでウィンクも飛んでくる。一度見ると、何度も見返したくなる、癖になるプログラムだ。

噛めば噛むほど味の出る『黒い十人の女』。構成は、昨年12月に行われた全日本選手権からブラッシュアップされている。昨年11月のNHK杯までは冒頭に3回転フリップ、続いてダブルアクセルという構成だったが、得意のダブルアクセルを冒頭に持ってくることで演技に勢いがついた。番目の3回転フリップ、最後の回転ルッツ-3回転トーループと、ラスト2本は3回転ジャンプを連続で飛ぶことになるが、「何をしたら点が取れるのかをしっかり考えて」の挑戦だ。

この日のSPでは、結果的に3転トーループで転倒したものの、演技後は「今後、絶対この構成で成功できると思えた試合だった」。力強く語る瞳からは、自信が感じられた。-3に臨む姿勢、そこまでの気持ちの持っていき方など、試合を通じて収穫があったようだ。

「出来映えを気にせずに、自分がやりたいことをやり通すことを明日は目標にしてがんばりたい」。思い描いたようにやり通すことができたのだろう、SP3位(59.81点)から、翌7日のフリーで位(127.73点)を獲得し、逆転でインカレ初制覇。2018-2019シーズンの全日本女王・坂本花織(神戸学院大、シスメックス)、12月の全日本で位になった樋口新葉(明治大学、ノエビア)らトップクラスも出場する大会を制したことで、2020年のスタートに弾みをつけた。

「トップ選手に届いていないことを自覚して、少しでも近づけるように考えて練習をしている」と横井。今季はシニアのグランプリシリーズに初参戦、脚光を浴びた表現力に磨きをかけ、SPとフリーをそろえる安定感が身に着けば、さらに楽しみな存在になるのではないだろうか。まだまだ伸びしろを感じさせるだけに、一段と注目度が高まっていきそうだ。

 


「失敗を笑わない」世界

会場の日本製紙アイスアリーナで何度も耳にした音と声がある。

拍手と「がんば!」という声援だ。会場のあちこちから自然発生するそれは、転倒した選手にも大きな音量で贈られる。所属もキャリアも分け隔てない。成功しても、失敗しても、いずれにせよフィギュアスケーターへ贈られるのは、その挑戦への賛辞と励ましだった。

自分に置き換えて、想像してみた。

多くの人が見ている前で、転倒する。しかも、何度も。痛いし、恥ずかしい。逃げたくなることもきっとある。途中で演技をやめたくなるかもしれないし、萎縮して挑戦することを怖れてしまうかもしれない。

しかし、何度転んでも立ち上がり、氷上で挑むことをやめないフィギュアスケーターと、それを支える拍手と「がんば!」を繰り返し会場で見ているうちに、その怖れの感覚が薄まっていくのを感じた。

スケートは、トップ選手でさえ失敗がつきまとう競技だ。スケーターは練習を積み重ね、自らに課題を課し、それを乗り越えながら、自分のやれることを増やしてきたはずだ。選手はもちろん、それを見ている観客も、何かを乗り越えてきた人ならそれがわかるのかもしれない。それに伴う痛みも恐れも。挑戦には勇気が要ることも。

その勇気を振り絞るのに、「応援が力になる」ことを知っている人たちがつくるリンクの雰囲気は、とても清らかで温かかった。

フィギュアスケートの取材、というより現場で試合を見るのも今回が初めてだったが、選手と観客の皆さんから刺激をいただくことができた。攻めの構成で挑戦し、諦めずやり抜き、フィニッシュを決める年に。アイスホッケーのお隣りにある競技に、とても励まされる年頭になった。

会場の日本製紙アイスアリーナ。寒気の中、美しい夕日に照らされていた

表彰式はクレインズ、十條製紙のユニフォームの下で行われた。普段はアイスホッケーを見慣れない人に、いいPRになったかも

先日、クレインズ入りが発表されたサンダース選手。ユニフォーム姿はかっこいいが、薄着なのが心配だ

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