アイススポーツジャパンの北海道支部長、大窪「おかぴ」映利佳のリポート3弾目です。今回の取材は、1月1213日のアジアリーグ苫小牧シリーズ・王子イーグルス‐栃木日光アイスバックス。彼女自身、アイスホッケーを本格的に見るようになって2シーズン目で、「アイスホッケーに関心を寄せてくれる初心者ファンや女性ファン向けの内容などを意識して書き続けたい」という思いを込めて書きました。フレッシュなリポートをお楽しみください。


「王子の王子」が決めた初ゴール

取材に行く前日の1月11日。年明けのホーム初戦で王子のルーキーDF、ハリデー慈英が初ゴールを決めた。とはいえ、放ったシュートにゴールを狙う意図はなかったという。

「ふつうにダンプ(※センターラインを越えた位置から相手ゾーンへパックを打つ)してキーパーに当てて、そこからチームにチャンスが広がればなと思って打ったやつが、運よく入ってよかったなと思います。あの位置からっていうのは、人生初めてくらい」。チャンスメイクを考えてのロングショットは、ゴールという最良の結果につながった。

ルックスがよく、女性ファンから「王子の王子」とも呼ばれている。アイスホッケーはDFでもゴールチャンスが多いので、初ゴールを待ちわびていたファンもいただろう。インタビューの合間には、通路を通りかかるチームメイトに冷やかされる場面もあった。微笑ましい、良好な関係を築いていることがわかる。

初ゴールのパックは、この3連戦を見に苫小牧に来た両親へプレゼントしたそうだ。当日のヒーローインタビューでは、客席のどこに両親がいるのかを確認してから感謝を伝え、観客には「足元が悪い中、ありがとうございます」と感謝を伝えた。細やかな心配りができる選手だ。

両親から贈られた「慈英(登録名はじえい、じぇいとも呼ばれる)」という名前には、「英語圏にいても日本にいても通用するように」という願いが込められている。その名を携え、アイスホッケー選手としての最終目標をどこへ置いているのか本人に尋ねると、「今、漠然と何っていうのは正直決まっていなくて、王子でたくさん試合に出て活躍することが直近の目標です」という。目の前のことに集中している印象を受けた。

単独のインタビューでは、手際よく質問できない私に対して嫌な顔もせず、目を見てスマートに受け答えするハリデーが、いっそう丁寧に答えてくれた瞬間があった。「日本代表に対する思いはありますか?」と尋ねた時だ。

「もちろん。はい、それはもう、もちろんあります」。熱のこもった言葉を口にした後、すぐに冷静に現状を分析した。

「でも、まずそこに近づくためには、数字を残す活躍をして、自分のチームで信頼を得ることが大事だと思うので。日本代表っていうのもあるし、もちろん、そこにたどり着くまで頑張りたいっていうのはありますけど、まずはひとつひとつ自分ができることをクリアしてからそこに近づきたいなと思います」

ハリデーは早稲田大学在学中に北米のジュニアリーグでプレーしたため、夏まで大学の授業を受けていた。9月にチームに合流、ここまで出場機会を多く得られていない。出場時間を増やすには、「まず信頼を得ること」。初ゴールに浮かれることなく、今、置かれている状況を冷静に見つめていた。


王子が目指す「全員ホッケー」 

この3連戦は、王子が6-1、2-1と連勝した後、3戦目は3-2でアイスバックスが一矢を報いた。3戦目を終えた後の王子・菅原宣宏監督の会見での言葉に、今の王子が目指すホッケーの形が表れていたように思えた。

会見は、「残念です」というひとことから始まった。「失点は2失点以内。3点取って勝つという目標を掲げていますので、3点目を取られると厳しい」

どのチームもGKの技術が非常に高く、1試合で4点以上を取るのは厳しいという。だから、勝つためには2失点以内に抑えたい。しかし、この日は自分たちで招いたミスも重なり、3失点。菅原監督の言葉通り4点を取ることは難しく、逆転は叶わなかった。

ミスが絡んだ失点に対して菅原監督は「アイスホッケーはミスのスポーツ。ミスばかりのスポーツですから」と責めることはしなかった。「ミスした選手が悪いというわけではなくて、そこをいかに周りがカバーしていくかということが大切なんです」。そう語った後に「体力的にも精神的にも厳しい3連戦を戦った選手たちの努力をうれしく思う」と、選手への労いも忘れなかった。


1月18日からは、韓国・コヤンでのデミョンキラーホエールズ戦を皮切りに、26日まで国外での6連戦。厳しい試合が続く。現在、レギュラーリーグの3位につける王子が、より上位を目指し、プレーオフ進出を確固たるものにするためにも負けられない遠征だ。「調子の悪い選手も出てくるでしょうし、1人の力で何かできるってことはないので、みんなでカバーし合いながら。みんなで助け合いながら乗り切りたい」

今シーズン、試合を重ねながら「みんなでつくりあげてきたイーグルスのチームカラー」と菅原監督が言うのは、「みんなで粘り強く守って、いい攻撃につなげるホッケー」だ。何度も繰り返される「みんなで」という言葉が、今季のチームの象徴のように感じられる。 

「攻撃力もあり、選手の技術が高いですし、クオリティも非常に高いので、そういうのをこの先も出せるように」。アイスバックスとの3連戦が、今のところ今季のホームでの最後の試合。プレーオフに進めば、再び苫小牧のファンの前で試合ができるかもしれない。層の厚いチームでの「全員ホッケー」を貫くことが、その可能性を広げていくはずだ。


チームの「信頼」を得ることが、選手の成長に

チームが掲げる目標に向かい、周りと助け合いながら、選手が自分の実力を発揮する。言い換えれば、チームから信頼を得られるプレーをすることが、選手にとっての「指標」になる。

そう考えると、ハリデーが「(出場機会を増やすためには)まず信頼を得ること」と話したのも、とても納得がいく。

「初ゴールもできたことですし、これからも出場機会を増やしてチームの勝利に貢献できればなと思っています」。そう語ったハリデーだったが、3戦目は4つ目のセットでベンチ入りしたものの、試合中盤から出番を得られなかった。

スタンドで観戦していた両親に、最後までリンクに立つ姿を見せたかっただろう。前日に「明日もちゃんと、しっかり勝って3連勝して終わりたい」と話していただけに、自分がそれに貢献できなかったのも悔しかったはずだ。それでも、まだこれからの選手だ。リンクの外から試合を見つめる時間も、きっと無駄にはしないはずだ。

 

苫小牧では、3連戦の中日にあたる12日に成人式が行われたそうだ。白鳥王子アイスアリーナにも、晴れ着の新成人の姿がちらほらと見られた。そんなフレッシュな人たちも含め、連日1500人以上がリンクを訪れ、最終日には試合後、選手とファンが直接ふれ合う氷上交流会が開催された。

交流会では、ハリデーの前にもファンが長い列をつくり、彼はファンひとりひとりに明るい笑顔で応じていた。その姿を見て、前日の会見で「残りの試合ではどんなことが大切か」と問われた菅原監督が語った言葉が思い出された。

「明るく、元気に。そこホント、大切ですから」 

まずはひとつひとつ、自分ができることをクリアしていく。今の思いを持ち続ければ、ハリデーはきっと前に向かって進んでいけるはずだ。

今夏まで東伏見の早稲田の合宿所に住み、授業とラーメン屋でのアルバイトを両立させていたハリデー。麺の湯切りで鍛えたリストからのファインゴールが見られる日も遠くないだろう

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