まさか20年後もここに来るとは思わなかった。最初の訪問は1999年の冬季アジア大会。日本は男子決勝リーグで韓国を13-1で破り、カザフスタンとは引き分けたものの、得失点差で2位だった。伊藤賢吾(クレインズ)と高橋淳一(古河)が期待の若手DFで、FW佐藤正和(クレインズ)がなぜか女子高校生に大人気。サイン用の色紙を持った女の子が日本代表のバスを取り巻いた。その横には、当時のヒュンダイオイル・オイルバンカーズの選手バス。車体にびっしりファンのメッセージが描かれ、韓国にもホッケーファンは多いのだと思わせた。日本文化への統制が敷かれ、カラオケ屋のおばさんがこっそり「日本の歌あるよ」と教えてくれた時代だ。ソウルからバスで4時間、北朝鮮の国境に近い江原道(カンウォンド)の江陵(カンヌン)。間違いなく、もう二度と来ることはないだろう。当時はそう思った。

ところが2018年の平昌五輪のスケートとアイスホッケーの開催地に江陵が選ばれ、2017年のフィギュアスケート四大陸選手権、2018年の五輪、そしてこの2月と、実に4度目の訪問になった。五輪前に開通したKTXに乗れば、ソウル駅からジャスト2時間。今や江陵は高層アパートが立ち並ぶ中規模都市で、しかし、駅からタクシーで5分ほどの五輪会場周辺の景色は、21年前と変わらない。アジア大会のホッケー会場だったリンクは五輪ではカーリング会場になり、その横の陸上競技場も当時のまま。ソウルとは、同じ国でも時間の流れが違う。

前置きが長くなったが、2月3日までこの江陵でU20世界選手権のディビジョンⅡ・グループBが行われた。優勝は5戦全勝の韓国、2位はオランダ、3位は中国。人気チーム・ザグレブがあるクロアチアが4位なのは意外だが、最終戦は韓国と3ピリ後半まで互角に渡り合い、実力の高さをアピールした。優勝した韓国は、来季は同ディビジョンのグループAに昇格する。

大会の会場は、五輪のメイン会場だった「カンヌン・ホッケーセンター」。隣にはスピードスケート、その横にフィギュアスケート会場が並び、五輪を見る人、取材する人にとっては非常に都合のいい空間だった。それでも五輪が終わってしまえば、そこにあるのは「最新のゴーストタウン」。市街地から離れた場所、しかも氷点下の寒さもあって、行き交う人の姿は皆無だ。場違いとも思えるLED光線に彩られたアリーナで、ひっそりと国際大会が行われていた。

大会最終日にあたる2月3日は、当初は3試合観戦する予定が、江陵駅のATMでキャッシュカードが出てこなくなるハプニングに見舞われ、第1試合の中国-オランダ戦を見られない痛恨の事態。第2試合のベルギー-イスラエルは、関東大学1部B(ベルギー)と2部リーグ(イスラエル)の入替戦といったレベルで、イスラエルには2~3人うまい選手がいて、その選手がパックを持てば相手ゾーンを攻め立てるが、それ以外の時間はベルギーが攻めまくる展開だった。

ベルギー-イスラエル戦の途中、座席にいる人を数えると14人。木戸銭を払った「観客」は、さらに少なかったはずだ。それでも第3試合、韓国-クロアチア戦は、400人弱がスタンドを埋めた。関係者や選手の家族が占める割合が高かったにせよ、アイスホッケーをやっていると思しき子ども、韓国の国旗を持ったファン、家族連れもいて、アイスホッケーの「種」が江陵で芽を出していることを感じさせた。

韓国-クロアチアは、3ピリ前半まで2-2だったが、終盤に韓国が突き放して4-2。韓国は、試合前の練習(オンアイス)ではパスレシーブが雑で、あまり気合が入っているように見えなかったが、パックドロップ後はプレーの精度、真剣度が目に見えて上がってきた。そういうところは、どちらかといえば欧米の気質に似ているのかも。体が強く、コンタクトプレーでもクロアチアにけっして負けていない。DFイ・ミンジェ、FWカン・ミンワン、そしてGKキム・ヒョンチャンは、いずれも近い将来、国家代表に入るだろう。

チケットは大人5000ウォン(約500円)。映像や照明を用いての演出もあり、試合以外でも楽しめた。特に平昌五輪、世界選手権トップディビジョンにおける国家代表の試合、バックヤード風景を編集した映像は感動的ですらあった。売店のフードはカップラーメンくらいで、しかたなくポテトチップス(3000ウォン)で空腹をごまかしたが、まずまず楽しい時間を過ごすことができた。

アイスホッケーに限らず、韓国はその競技のエリートを子どものころから徹底して鍛え上げる超・少数精鋭の国だ。人口が少ないだけに、世界と伍する上ではそれが一番効率的なのだろう。1998年、日光でアジア・オセアニアジュニアが行われ、駒大苫小牧高2年の小原大輔(王子FW)ら黄金世代を擁する日本は韓国に大勝したが(スコアは忘れました)、その一方で、FWもDFも、試合のベストプレーヤーと思えたのは韓国の選手で、さすがスペシャリストを生み出す国だと感じたのを覚えている。ちなみに、試合終了間際には大乱闘。日本と韓国は、まだそういう間柄だった。

韓国でのアイスホッケーは「不人気スポーツ」の1つだ。寒冷地ゆえ、本来であればアイスホッケーはもっと盛んになってもよさそうなものだが、結局、エリートスポーツゆえに競技人口は増えず、競技自体も国全体に広まらず、しかしエリートスポーツゆえにシニアの国際舞台での活躍度は増した。

今回の訪問で、2018年の「余熱」がわずかながらこの地で感じられたのは収穫だったが、カンヌン・ホッケーセンターがはたして今後、何年稼働するのかはわからない。つまるところ、それは韓国が世界ランキングを上げていくよりも、国内でアイスホッケーを愛する人をどれだけ増やすかにかかっている。次回、この街に来るのはいつのことだろう。その時、1999年のアジア大会、そして2018年の五輪の熱は、どのくらい残っているのだろうか。

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