まず初めに、2月22日の東京ブルーズ合同練習ならびに3on3のイベントに参加された学生の皆さんに、あらためてのごあいさつを。イベント開催はブルーズ初めての試みで至らぬ点もあったと思うが、新しい出会いに感謝したい。このご縁を大切に、また一緒にアイスホッケーをしましょう。


翌2月23日。前夜からイベント後の書類作成に夢中になっていたら、外が明るくなってきた。さてどうしようかと考え、水戸まで出かけてみることにした。この日は明治安田生命2リーグ、ホーリーホックと大宮アルディージャの開幕戦。プロスポーツのオープニングゲームを見られるチャンスはそうそうないし、ちょうど梅の見ごろでもある。首都圏からのワンデイ・トリップに、水戸までの距離はちょうどいい。

そんなわけで、上野駅から特急に乗って1時間強。梅の名所・偕楽園で下車し、水戸駅からのシャトルバスに乗ってスタジアムへという完ぺきなプランを立てた。ところが、待てども待てどもバスが来ない。ま、渋滞しているし、しょうがない。にしても、ちょっとおかしくね? よく見るとシャトルバスを運行している会社と、偕楽園の停留所に書かれてあるバス会社の名前が違っている。バス停の場所が全然、違っていたのだ。それに気づいたのは最終のシャトルバスが出発した後。仕方なくタクシーを利用すると、料金は3500円。同乗の3人で割ったからよかったものの、1人だったら痛い出費になっていた。

かくして、ケーズデンキスタジアムに到着。普段、サッカー観戦の際は最寄り駅から歩いて競技場に向かう身としては、試合前から「プロビンチャ」を体感できた。カシマもそうだが、東京方面から行くには、北関東はやはり車がいいのだろう。思い起こせば、山形でも宇都宮でも甲府でも新潟でも松本でも前橋でも磐田でも富山でも熊本でも、地方都市でのサッカー観戦の頼みの綱は、シャトルバス。時間を気にせずアクセスできたのは、スタジアムが駅の隣にある鳥栖くらいのものだ。プロ野球と比べ、Jの地方クラブは明らかにスタジアムまでの「足」でハンディキャップを負っている。

で、水戸ホーリーホック。彼らのホームゲームを見るのは今回が初めてだった。というより、水戸の試合を見たのも十数年ぶり。前に見たのは、まだ大宮サッカー場が改修される前で、男ばかり20人ほどのサポーターが「みんなで歌おう、みとーのためにっ」という、やたら高音のチャントを懸命に歌っていたのを覚えている。この日はホームとあって、スタンドの7割は水戸の応援。同じ関東の大宮からも、かなりの数のサポーターが来ていた。水戸も、大宮も、ともにJ1のビッグクラブが県内にあり、「じゃないほう」同士の対決。東京時代の日ハム的な、神宮の平日ナイトゲーム風な、熱を帯びているけど切羽詰まってはいない、余裕を含んだ空気が漂う。

試合は前半、新外国人オウン・ゴール選手の先制点でリードした大宮が、後半、水戸の絶妙の崩しから同点に追いつかれるという、ありがちな展開。大宮の切り札オウン選手は後半に入って疲れが見え始め、試合の流れから消えてしまったものの、シュートのこぼれをフリーになっていたFWが流し込む会心のごっつぁんゴールで2-1、大宮がなんとか勝ち点3を拾った。

得点シーンを除けば、観客が一体になったのは最終盤だけだった。終了間際、水戸が同点のチャンスを築いた時に、それまでのバックスタンドだけでなくメインスタンドも手拍子に包まれ、時同じくして対岸では大宮を後押しする手拍子とチャント。それ以外の時間帯は、飛び跳ねたい人は飛び跳ね、1人で腕組みしたい人はじっくりと、家族や恋人と観戦している人はゆるやかに。そうした「個」の権利がしっかり尊重されていた。そこはなんとなく、アイスホッケーの会場に似ていた。

昨シーズン、水戸は終盤戦まで昇格争いの中にいた。そんな折、当時の長谷部茂利監督は「今のままの集客ならJ1に行かないほうがいい」と発言している。昨シーズンのホーム1試合あたりの平均観客数は6000人強。2000年代初頭の20003000人台からは脱却したものの、J1を念頭に置けばやや足りない。現場の責任者が先の発言をしたのは相当な勇気が要ったはずだが、クラブの実情を誰より知っているからでもあっただろう。今回、水戸に行ってみようと思ったのは、J1を目指していながら、J1に上がった時の景色が必ずしも幸福ではない(と現場の人間が感じた)クラブってどんなものだろうという興味があったからだ。

あくまで私見だが、水戸というクラブを見ていると、今の日本のアイスホッケーがダブってくる。近くに強力なスポーツチームが存在し、さらに発信力も十分ではないため、集客に高い壁がある。試合会場に向かうバスに乗り損ねるとタクシーを使うしかなく、それゆえ子ども同士の観戦はハードルが高い。試合会場は他団体の持ち物で、優遇措置があるにせよ必ずしも自由に使えるわけではなく、制限もつきまとう。大企業を母体とするチームに、インディペンデントのにおいがするチームが挑んでいくJ2の構図も、アイスホッケーと共通している。そして何より、トップカテゴリーから見える光景が、クラブによっては必ずしも夢や幸福だけではないという意味においても。

かつての水戸がそうだったように、実は今でも、J2やJ3には、かなり抑えられたギャランティで選手や従業員を雇っているクラブがある。天皇杯でJチームがアマチュアに敗れると「ジャイアントキリング」と表現されるが、実はJFLや地域社会人リーグ、さらには大学にも、J2やJ3以上に環境のいいチームがあり、それゆえ実力ある選手がそろっているケースは少なくない。カテゴライズでいえばJFLはJ3の下にあたるが、競技環境や雇用条件はプロより社会人チームのほうが上ということもザラにあるのだ。そのあたりも今のアイスホッケーと似通っている。

開幕ゲームを見ただけで、おそらく水戸ホーリーホックの何もわかりはしないだろう。この日の観客は7000人超。熱気も華やかさも十分に感じられたし、水戸というクラブがJ1というステージにふさわしくないとは思えなかった。試合に負けても、選手を迎えるサポーターの声は、穏やかで優しい。が、しかし、私が見たのは年間の中でも1番目か2番目の「ハレ」の舞台であり、たとえば天気の悪い日だったり、平日の試合だったら、また違う景色を見ることになるのかもしれない。

故郷のクラブ・大宮を応援に行ったはずが、上野駅に戻る道中、頭の中はホーリーホックへの興味でいっぱいになってしまった。試合開始前、水戸の応援席の人文字は「ROAD toJ1」。サポーターだけでなく、クラブも思いは同じなのだろう。1年前に「J1に行かないほうがいい」と表現されたチームは、「J1に行ったほうがいい」と思える環境をどのように創り上げていくのか。正直にいえば、フィールドの中よりもそちらに強い関心がある。

この開幕戦が行われた週末を最後に、Jリーグはウイルス感染防止を理由にシーズンを中断している。水戸も、3月18日に予定されていたホームゲームがスタジアム閉鎖により開催できなくなってしまった。ホーム2戦目にして訪れた試練。水戸を含め、特にJ2やJ3のクラブにとってこの中断は死活問題だ。

よし、リーグが再開されたら、また水戸に行ってみよう。開幕戦とは違う普段着のスタンドに腰かけた時、この日とは異なる感慨が自分の中に沸くかもしれない。なにより、名鑑の中に気になる選手を見つけてしまったのだ。開幕戦を欠場した、アントラーズから期限付き移籍のFW山口一真。どこか他人と思えない山口選手の活躍を、そして長谷部監督率いる福岡との試合を、次はちゃんとシャトルバスに乗って、ケーズデンキスタジアムまで見に行こう。

(アイススポーツジャパン代表 山口真一)


水戸を訪れた目的がもう1つ。水戸啓明高の監督を退かれた吉澤忠先生を訪問した。退職後は喫茶店のオーナーを務める傍ら、ホーリーホックのアイスホッケーチームの運営にも携わっていくとのことで、その話題はまた後日。

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