今だから、正直に言う。6月2日。横浜グリッツのアジアリーグ加盟が決まった日のことだ。「チーム力も、オーガナイズも、トップリーグに入るには早いんじゃないか」。包み隠さず言えば、そう思った。そう思ってしまった。

それから4カ月が経った、1017日。横浜グリッツが、チームの歴史上初めてのホームオープナーを迎えた。肌寒い秋雨の中、新横浜に集まった観客は507人。試合開始15分前の段階でチケットはまだ窓口で販売されていたが、それでも場内には「熱」があった。この試合を見るために、新横浜まで来た。自分の意志で、チケット代を払ってここにいる。そういう人たちが集まれば、そこには必ず「いい空気」が漂う。

先制したのはクレインズだった。開始57秒、FW河合卓真が力ずくで押し込んだ。グリッツとすれば、パック処理のミスから起きた、防げた失点。王子との開幕シリーズを思えば、ここから一方的な展開になってもおかしくなかった。

それでも、グリッツは崩れなかった。チームは苫小牧での大敗(1-8、0-12)から戻ると、火曜日から3回、各1時間の氷上練習を行なった。仕事との両立で、練習量はどうしても制限される。短い時間の中で重視したのは「守り」だったという。

「特に意識したのは、マンツーマンでの守りです。マークを外さない、対面にいる選手を自由にさせないことを徹底しようと。それをチーム内で確認しました」(DF菊池秀治)。立ち上がりの1失点目で崩れることなく、逆に2ピリ6分には、FW池田涼希が「一番得意な股下を狙った」右からのシュートで1-1とする。

5分後、クレインズはFW泉翔馬がタイミングいい飛び出しでルースパックを拾い、GKを右に巻いてファインゴール。3ピリにも2点を奪い、4-1でシーズン初勝利を収めたが、全体の印象としてはグリッツの健闘がより印象深かった。

スタンドには、この試合が初めてのアイスホッケー観戦という人も少なからずいただろう。この日のグリッツは、木戸銭と引き換えに提供する娯楽としての水準をクリアしていた。初勝利までは、まだ少し時間がかかるかもしれないが、グリッツの選手にとっても、ホーム初試合から得た手ごたえは小さくなかったはずだ。

「そうですね。1歩目が踏み出せたというか、次のステップに行けた感じはします。まあ、昇るべきステップはここから先もいっぱいあるのですが、とりあえずは1歩、上に行けたのかなと」(菊池)。仮に苫小牧と同じような展開になれば、リンク内の空気は非常に重苦しくなっていただろう。「はい。今日は最後までお客さんの応援を感じて、この横浜が自分たちのホームなんだと心強く思いながらプレーできました」。それもまた、グリッツにとって大きな1歩だったといえるだろう。

最後に。個人的にもっともうれしく、心強く感じることがあった。グリッツを支えている若いスタッフの存在だ。その数、3536人。20歳~30歳代の若い人が中心で、交通費などの支給のみで、それでも裏方の仕事を嬉々としてこなしていた。

聞けば、「アイスホッケーを知ってまだ1年」とか「実はホッケーを見たことがなかったのですが、新しいチャレンジをするチームで自分も何かに挑戦してみたかった」という人がほとんどだった。少し前まで、アイスホッケーとは違う世界にいた人たち、グリッツの誕生がなければアイスホッケーの世界に入っていなかった人たちだ。「ビギナーズ・ハイ」特有のピュアなエネルギーを漂わせた若い人を見て、ふと、6月のあの日を思い出した。

横浜グリッツのトップリーグ加盟は、早かったのか、そうではなかったのか。この10月17日をもって、自分の中では結論が出たように思う。今までのアイスホッケー界になかったものを生み出し、気づかせてくれる。アイスホッケーの未来をつくっていく上で、このチームの加盟は、むしろ私たちにとって必要なことではなかったのかと。

(アイススポーツジャパン代表 山口真一)

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