試合後、グリッツ平野(右)に駆け寄るフリーブレイズのキャプテン人里。白樺学園高では人里がキャプテンとして高校日本一、翌年は平野がキャプテンとしてインターハイを連覇している。


アイスホッケー界にとって踏んだり蹴ったりの2020年。あくまで個人的なビッグニュースを挙げるとすれば、NHLオールスターにパンクロックの大御所グリーン・デイが出演したことと、国内では「横浜グリッツのトップリーグ加盟」になる。

11月2122日は、そのグリッツとフリーブレイズの2連戦。フリーブレイズは前年度リーグ最下位で、今季のジャパンカップも今のところ4位。開幕からカップ戦10連敗、しかし試合ごとに成長しているグリッツが初白星を挙げるならこのシリーズ。そう思っていた人もいただろう。

成長力は若者の特権のようにいわれるが、グリッツを見ていると、年齢を重ねても人間は伸びるのだということがよくわかる。たとえば35歳のFW・濱島尚人。1999年、軽井沢で行われたU15のエリートキャンプで、彼に話を聞いたことがある。入試の難易度では日本トップの私立中学に通い、「勉強を頑張っているのは将来、NHLに行きたいから」と語っていた少年が、21年後にオールドルーキーとして横浜でプレーしているとは。そろそろ中年と呼ばれる年齢なのに、試合ごとにうまく、速くなっている。そして濱島に感化されるように、矢野倫太朗、松渕雄太、茂木慎之介ら若手FWも、大学時代と比べてどんどんうまくなっている。


このシリーズ、初戦は1-3でフリーブレイズの先勝。グリッツは、PPが機能しないことで時間の経過とともにエネルギーが低下していった。しかし、グリッツはこれまで、連戦初日の課題を2戦目に修正し、ゲーム内容に反映させてきた。22日の試合への注目度はおのずと高まった。

1ピリ開始直前、グリッツはパックドロップ間際に1つ目を下げ、4つ目のFWを送り出した。「ケネディ・ヘッドコーチのアイデアです。走って、走って…というチームが目指すプレーを4つ目がやってくれれば、他のセットも、俺たちもやらなきゃという気持ちになる。試合の一番最初に、それをチーム内で確認しようと」(浅沼監督)。狙いはドンピシャ。開始1分、2番目にシフトされたファーストラインのFW池田涼希のリバウンドショットで、グリッツが先制する。

グリッツは5分、ラップアラウンドからのパスをまたも池田がたたいて2点目。前日、先行したフリーブレイズが中盤以降、守りに主眼を置いて逃げ切ったことを考えれば、そのゲームプランを狂わせる「2点リード」だ。グリッツは2ピリ序盤に2-2に追いつかれたが、24分、ゴール裏左に詰めたFW氏橋祐太からのパスに、茂木がタイミングよく飛び込んで自身初ゴール、勝ち越しの3点目を挙げる。36分には、FW角舘信恒のフラッシュを生かして、松渕が左からミドルシュート。4-2、この試合2度目の「2点リード」を奪い、初勝利の予感をふくらませる。


次の1点はどちらに入るのか。特にグリッツにとっては絶対に譲れないところだったが、2ピリ後半から運動量が落ちた。自陣ゴール前の守りでは、人数はそろっていても「あと一歩」の踏み込みがない。2ピリ終わりの38分に3失点目、3ピリ序盤の43分には同点の4失点目。じわり、じわりとフリーブレイズが試合をコントロールしていく。

49分、グリッツはPPを得るも、得点には至らず。逆に、厳しい時間帯を耐えたフリーブレイズは52分、キャプテンのFW人里茂樹がハットトリックとなるゴールで、この試合初めて勝ち越す。58分にはエンプティで6点目、59分にもPPで7点目。このピリオドだけで4得点を重ね、グリッツを押しのけた。

フリーブレイズに力水を与えたのは、43歳のゴーリー橋本三千雄だった。26分、4失点目を喫したところで途中出場し、以降は無失点で逆転を下支えした。特に3ピリの内容は出色で、足がよく動き、決定的な場面も最後の一線を割らせなかった。相手に攻め込まれる場面も、味方が得点しても、冷静に、大胆に、いちいち顔色を変えない。普段から質の高い準備を重ねてきたことがわかる安定感は、スクランブル出動だからこそ余計に光った。

グリッツにとっては、ECHLシンシナティへの合流が決まったFW平野裕志朗のホーム最終戦。初勝利の飾り付けはそろっていた。3ピリ頭からは、GKを小野航平から黒岩義博にチェンジ。「みんなで戦って、みんなで勝利をつかむ。黒岩を出すことで、全員で勝つんだという、いい意味の緊張感をチームに与えたかった」(浅沼監督)。実を結べば、これ以上ないストーリー。しかし脚本は途中で書き換わった。

グリッツはこの試合、2点リードの局面を2度つくり出し、52分までは4-4。開幕前の下馬評を思えば、驚異的な成長度といえる。一方で、勝ち星を挙げるには、まだいくつかヤマを超えないといけないと思わせる部分もあった。

1つ目はスペシャルプレー、特にPPだ。成功率は約15パーセントで、これは5チーム中4番目(ついでにいうと、クレインズの成功率7パーセントは、計算違いかと思えるほどの数字)。グリッツの氷上練習は週3回で、1回あたり1時間。仕事の都合で必ずしも全員がそろわない状況では、スペシャルの整備までなかなか手が回らないだろう。2つ目は体力。60分のどこかでパワーダウンして、手痛い失点をするケースが多い。これもやはりトレーニングのための時間が必要で、仕事との両立を考えると簡単に解決する問題ではない。

そして3つ目。ちょっと表現が難しいが、グリッツがナイスガイの集団であることだ。取材や撮影の時にいつも感じることだが、グリッツの選手は総じて優しく、紳士的。親しみやすさと、一般常識をわきまえた「普通っぽさ」を兼ね備えている。職場での周りの評価もきっと高いだろう。ただ勝負の世界では、時に生真面目さがナイーブな精神状態につながることもある。

人間の長所と課題は背中合わせで、選手のやわらかな物腰と社会性は、まぎれもなくグリッツの特長だ。謙虚に学び、努力する。そんなチームだからこそ、短期間でこれだけの成長を遂げてきた。あとは、自分たちの個性を殺さずに、勝つための「したたかさ」をいかに手に入れるか。戦力に目を向ければ、ゲームメイクに優れたFW川村一希がこの連戦で復帰し、平野のシュートがより生きる環境になった。初勝利を逃した経験をどう生かしていくか、日光でグリッツの成長力が試される。

(アイススポーツジャパン代表 山口真一)


フリーブレイズのエキップメントマネジャー・吉田年伸さんから握手を求められ、笑顔の平野。遠征中は睡眠時間を削るほど忙しい吉田さんだが、グリッツの選手のスケートを研磨するなど、バックヤードではノーサイドな交流があった。

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