第88回全日本選手権A・準決勝(12月12日・テクノルアイスパーク八戸)

王子 2(1-2、0-1、1-0)3 フリーブレイズ

 

試合後の敗者チームの会見。王子・菅原宣宏監督は、マイクを握ったまま30秒間、最初の言葉を発することができなかった。顔色はなく、視線は宙をさまよう。「ご覧の通り、何ひとつ、うまくいかなかったです。フリーブレイズの気迫に負けました。自分たちからプレッシャーをかけにいかなければいけないのに、受けに立ってしまった。3ピリは気迫あるプレーが見られましたが、それをスタートからやっていかなければ勝てません。ウチの甘さでしょう。残念です。非常に残念です」

失礼を承知でいえば、実力では、王子がフリーブレイズを上回っている。そうみるのが妥当だろう。さらにいうと、フリーブレイズというチーム自体、きちんとそれを自覚していた。格下のチームが、強いチームを相手に一発勝負で勝つには、どうすればいいのか。フリーブレイズにとって特別な策を講じるのにためらいはなかった。

パックドロップの瞬間、フリーブレイズのゴール前には43歳の橋本三千雄が立っていた。1122日、ジャパンカップのグリッツ戦(新横浜)では、2-4、2点ビハインドの2ピリ途中から出場し、逆転勝利のヒーローになっている。シーズン前の位置づけは、自他ともに認める(内心は違うかもしれないが)ゴーリー3番手。それでもフリーブレイズはこの男に命運を託した。

フリーブレイズのキャプテン、FW人里茂樹は、「三千雄さんのような大ベテランが体を張ってゴールを守ってくれて、ビッグセーブをしてくれる。選手(スケーター)とすれば、それを黙って見ているわけにはいかないんですよ」と言った。「今日はシュートブロックもけっこうあったと思います。三千雄さんがゴールを守ると、三千雄さんにシュートを届かせないようにするプレーが自然と出てくるようになるんです」。その結束力は、フリーブレイズにとってこの試合における最大の武器になった。

1ピリ。この試合最初の赤ランプを灯したのは、その人里だった。8分、PPを利して先制のゴール。12分に追いつかれたが、直後の13分、ワイドリムで回ってきたパックを左ポイントからDF早田聖也がたたく。ゴールの枠からは外れていたが、それを人里が絶妙のディフレクト、勝ち越しの2点目を決めた。「あれは、ずっと練習してきたプレーです。枠を外れたシュートを打って、その角度を変えてスコアする。まあ、聖也があえて外したのか、ゴールを狙いながら外してしまったのかは、僕にはわかりませんが(笑)」と人里。フリーブレイズは2ピリ早々にもFW大宮良が3点目。その後は王子の反撃を1点にとどめ、リードを守り切った。

王子とすれば、3ピリのプレーが素晴らしかっただけに、1ピリ、さらには2ピリ立ち上がりの失点が惜しまれる。1ピリ12分に1-1と追いつき、ここからは王子タイムと思われたのに、逆に失点を喫するとは…。トップリーグ随一の実力者に、時たま生まれるエアポケット。その正体は、いったい何なのか。自分たちに来た流れを、安易に相手に引き渡してしまったことが、王子にとって最大の誤算だった。

試合後のバックヤードは、明と暗が交錯した。その中で印象的だったのは、フリーブレイズの選手やスタッフが喜びを表しながらも、喜びすぎてはいなかったことだ。「今日は、橋本を中心によく守ってくれました。選手の体はボロボロだったと思いますが、最後までやり抜いてくれた。決勝の相手、クレインズさんには今季、まだ一度も勝っていません。ウチは最後まで、泥くさく、体を張って、チャレンジャーとしてぶつかっていきます」(大久保智仁監督)。コロナの影響で八戸の中心部はひっそりとしていたが、そんな中で会場まで来てくれるファンの応援を力に、このチームが久々の栄冠に浴することも夢物語ではなくなってきた。(取材・山口真一)

試合後のフリーブレイズ、大久保監督とGK橋本。大勝負を制した安堵感を漂わせながら必要以上に喜んではいなかった。

元のページへもどる