左が高橋、右はジャパンカップ現時点で得点トップ(17)の中屋敷。「なんでコイツと一緒なんですか!」と高橋らしい無慈悲な一言も


アジアリーグ・ジャパンカップ2020・5回戦(3月20日、西東京市・ダイドードリンコアイスアリーナ)

HC栃木日光アイスバックス11勝8敗) 3(0-1、2-1、1-1、延長0-1)4 王子イーグルス17勝4敗)

12月、八戸で行われた全日本選手権。準決勝でフリーブレイズに敗れた後の会見で、王子の菅原宣宏監督はマイクを握ったまま押し黙ってしまった。「試合を終えた今の心境を」という冒頭の質問に対し、言葉が口から出てこない。目線は宙をさまよい、表情は固まっていた。

「ご覧の通り、何一つうまくいかなかったです」。終始、重苦しい空気だった会見を終え、その半日後、菅原監督は断を下した。「準決勝で運動量が足りない選手がいた。その選手は、今日から違うセットでしっかり走ってもらいたい」。チーム一の得点力を誇る、センター中島彰吾のセットを組み替えた。ウイングには、それまでと引き続き中屋敷侑史。そこに、新たに髙木健太が、さらにのちにはベテラン百目木政人が入った。

看板セットから外れたウイングは高橋聖二だった。父・啓二さんは王子製紙のスターFWであり、元監督。日本リーグや国際試合で代々木競技場が満員になった時代に、国土計画の運上一美と人気を二分したレジェンドだ。次男である高橋は、王子の社宅で育ち、物心ついた時にはスティックを握り、王子スポーツセンター(のちの王子製紙スケートセンター)が遊び場だった。高橋は、正真正銘の「王子の子」。苫小牧の王子町で育った、生粋の王子のホッケーマンだ。

叔父は、元国土の瀬沼彦三さん。ただし瀬沼さんのように、腰を落としてワンタイマーを打つイメージは高橋にはない。バッティングシュートもごく稀で、いつだったか取材でそのことについて聞くと「ああ、僕、そういうシュート、全然打つ気ないです」とあっさり答えていたものだ。パブリックイメージは、左のレーンを持ち上がってちょっと腰を上げてパックをコントロールし、そこからタイミングをずらして難しいシュートを打つウイング。GKとの1対1の勝負を楽しむ、独特のホッケー観があるように映った。

一方で、ハングリーさとか、歯を食いしばるとか、そういう匂いを感じさせない選手でもあった。早熟で、センスに恵まれているがゆえに、時として手を抜いているように見える。もともとはセンター志望で、しかし守りの面の課題を指摘され、ポジションはずっとウイング。ゲームメークも、得点力も、及第点ではあるが突き抜けたところがない。それが、これまで高橋につきまとってきた評価だった。

12月の全日本を機に、傍目には「セットを外された」ように見えるシチュエーション。それでも高橋は、「そんなふうには全然考えなかった」という。「昨シーズン一度も組まなかったレッズ(タイラー・レデンバック)と組んでみたい。そういう気持ちがずっとあったんです。実際にレッズと組んでみて、中島、中屋敷と組んでいた時とはプレーがガラッと変わった。新しいセットにアジャストしようと、今はとにかく必死です」

この日のバックス戦で、高橋は2つのゴールを決めた。1点目は、2-2で迎えた3ピリ(49分)。PPらしい大胆なパス回しから、RDの位置でレシーブしてミドルのスナップシュートを決めた。3-3で迎えた延長、63分には、ゴール前で2対1の状況をつくり、右レーンを持ち上がったレデンバックからのパスをバックドアでたたいた。ジャパンカップ優勝を決める、文字通りの「Vゴール」だ。

延長戦の1分過ぎ、王子はGKドリュー・マッキンタイアが左ハムストリングの肉離れで負傷退場。サブの成澤優太がマスクをかぶるというスクランブルに追い込まれた。63分には、ロングパスを受けて抜け出したアイスバックスFWの古橋真来と1対1。これを成澤が身を挺して防ぎ、その直後のシフトで高橋の決勝ゴールが生まれた。

試合後の高橋の言葉は、チームへの忠誠心であふれていた。

「ナリさんのあのセーブで、チームの士気が高まりました。絶対に勝つっていう気持ちが強くなった」

「(3点目の)ガッツポーズ、ああいうの僕らしくないですよね。とにかく勝ちたかったから、それで自然と出たのかな」

「今はポイントランキングとか、自分が何点入れてるのかも全然知らないんです。昔は気にした時期もあったけど、今はチームが勝つことしか考えてない」

「運動量が足りない選手がいる。しっかり走ってもらいたい」。3カ月前の全日本選手権での評価を、この日、高橋は覆した。優勝を決めたゴールは、Dゾーンの右サイド、さらには左サイドでパックバトルをして、そこから駆け上がって前方のレデンバックに追いつき、パスアクロスをたたいたものだ。

95年続いたチームの戦いは、「王子の子」のゴールで終わった。己のプライドと美学を胸にしまい、泥くさいプレーに徹して生まれた決勝ゴール。それは、4月から生まれ変わるチームが進むべき道を示す、新たなスタートの瞬間にも見えた。

(取材・山口真一)

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