PKでゴール前を2人で守るバックスに対し、王子は数的優位を保ってバックスのゴールを攻め立てた。PPの24分、FW大澤勇斗が体ごとゴールするように3点目をスコア。優勝で気を緩めるのではなく、新しい体制下で生き残るための危機感を感じさせた。


アジアリーグ・ジャパンカップ2020・6回戦(3月21日・西東京市ダイドードリンコアイスアリーナ)

HC栃木日光アイスバックス(11勝9敗) 0 (0-1、0-3、0-2) 6 王子イーグルス(18勝4敗)


前日にカップウイナーとなった王子が、2位アイスバックスに完勝した。これでカップ戦は王子の6戦全勝となり、全日本選手権を含めると公式戦7連勝。スコアは6-0、その数字以上に、両チームが積み重ねてきた時間とカルチャーの「差」を感じさせた。

王子は、先発ゴーリーに成澤優太を立てた。日本代表に選ばれ、本来はメインゴーリーを任される力がありながら、昨シーズン、ドリュー・マッキンタイアが加入したことで2番手に回っている。そのマッキンタイアが、前日の試合で負傷退場。成澤は延長戦を守り切って優勝を呼び込み、この日の出番が回ってきた。

豊富な経験を持ちながら、試合前の成澤はいつになく緊張していたという。「周りの人は、消化試合だと言うかもしれません。でも、今日は自分にとっての決勝戦。そう思って試合に入りました」。出番を減らしながらも、成澤は日々の練習で技術を向上させていた。菅原宣宏監督のもとには荻野順二コーチから逐一、それを裏付ける証言が伝えられていた。

具体的に、何のスキルが上がっていたのか。本人の弁を聞こう。「ポジションの入り方です。より確実に正対できるようになったといいますか。ドリューを見て、NHL(のゴールテンディング)を見て、荻野コーチのドリルをやって。これまでも正対しているつもりでしたが、まだ正確ではなかった。それが、練習を積み重ねることで改善したと思います」。だからこそ試合前はナーバスになった。「もし今日の試合がダメだったら、何のために練習してきたのか。そう考えると、やっぱり緊張してしまうんです」。成澤は、来季以降も現役続行を希望している。たとえチームが優勝を決めた後であろうと、この一戦が消化試合であるはずがなかった。

その成澤をチームメイトが援護した。1ピリに1点、2ピリに3点、3ピリにはダメのダメを押す2得点。連戦を通じてそうだったが、王子はニュートラルでプレッシャーに遭っても、そこからダンプし、ゴール前にパックを集めていた。シンプルかつ、トラディショナルな攻撃。足を動かし、それ以上にパックを動かし、2戦目は1戦目以上にバックスを翻弄した。スケーターの献身的なプレーに、成澤も完封で応えた。

優勝を決めた前夜、夕食の席でお酒が供されたが、どの選手もノドを潤す程度だったと成澤は言う。「少し口にしたくらいで、中にはまったく飲まなかった人もいます。この遠征は、王子としての最後の姿を東京のファンに見てもらう場。だから2試合とも王子らしい試合をして終わろうと、苫小牧の練習の時から選手同士で話していたんです。優勝を決めても、そこは変わりませんでした」

一方で、バックスは工夫が見られなかった。1ピリ分過ぎからの5人対3人のPPを逃し、PKでは自陣ゴール前でことごとく王子にアウトナンバーされた。悪天候の中、今季のホーム最終戦に駆けつけたファンに、「負けたけどあのシーンを見られたから満足」と思える時間を提供できただろうか。試合を通じてもっとも拍手が大きかったのは、この日を最後に日本での審判生活を終えるキモ・ホッカネンさんのお別れセレモニーだった。

ご存じの通り、王子は「会社のアイスホッケー部」という位置づけは今季限りで、新年度はクラブチーム「レッドイーグルス北海道」になる。選手にはこれまで2回ほど説明会があったそうだが、チームの方針で公式戦の間は試合に集中、今後についての具体的な交渉はシーズン後になる。この日、得点を決めた選手の1人は「これから自分がどうなるのか。正直、こわくてしょうがない」と不安を隠さなかった。

勝ってなお気を緩めず、目の前の試合に完勝した王子。背景には、選手の危機感と、王子製紙アイスホッケー部が長きにわたって培ってきたカルチャーが内在していた。

一方で、それは本来、クラブチームの先輩であるアイスバックスが、王子に対して示すべきものだった。前日、目の前で優勝を決められたことへの意地。優勝の可能性がなくなってもファンが見ている以上は「消化試合」は存在しないのだという、プロのプライド。「今日は自分にとっての決勝戦」。成澤が氷の上で見せた気概は、むしろアイスバックスにこそ必要だった。

(取材・山口真一)

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