▽アジアリーグ・ジャパンカップ後期4回戦(3月6日・日光霧降アイスアリーナ)

HC栃木日光アイスバックス(8勝4敗、勝率.667) 3(2-0、0-1、1-2、延長0-0、GWS0-1)4 東北フリーブレイズ(10勝4敗、勝率.714)

※フリーブレイズが後期優勝、3月19日からプレーオフ(ファイナル)でレッドイーグルス北海道と対戦


雪が降っていた。春はまだ先といわんばかりの横殴りの雪が。その中を霧降アイスアリーナに887人の観客が訪れた。多いのか、少ないのかはわからない。とにかくその人たちの前で、おそらく今季のベストゲームと呼べる一戦は行われた。

試合開始の2時間前。東武日光駅は人でごった返していた。前期2位、後期優勝にもっとも近いと思われたアイスバックスと、2月26日のイーグルス戦以降3連勝で最終戦を迎えたブレイズ。勝ったほうがプレーオフ(ファイナル)進出という大一番に、関東一円、いや全国からファンが集まったのだと気分が高揚する。

耳を澄ませば「霧降は今日が最後」という声が聞こえる。前日の3月5日はブレイズが2-4から逆転勝ち(最終スコアは5-4)、確かに流れはブレイズか。しかしバックスとてこのままでは引き下がるまい。バックスが勝てば霧降はこの日が最後ではなく、再来週にまた試合が…と思ったが、どうも様子が違う。カメラを手にした人たちが話していたのは、「霧降」ではなく「きりふり」。3月のダイヤ改正で、東武鉄道の特急「きりふり」が定期運行を停止する。駅を埋めた彼らは、ホッケーファンではなく鉄道ファンだったのだ。

 

雪が降る。あなたは来ない。鉄道ファンを東武日光駅に置いたまま、雪の中をアリーナ行きシャトルバスが走る。バスの座席は満員。クラブ関係者によると、前日の試合が終わって急激にチケットの売れ行きが伸びたそうだ。もともと2月初旬に開催予定だった試合の振り替えで、チケット発売からは2週間しかなかった。雪の中を集まった「887人」を身の丈ととらえ、そこからの上積みをまず目指していくべきだろう。

試合が始まった。ブレイズが5分にPSを得るも、得点ならず。代わりに9分、今やリーグ指折りのゲームチェンジャーとなった男が口火を切った。バックスのFW寺尾勇利がPPを生かしてDゾーンから持ち上がり、エントリーしてすぐにスラップシュート。バックスにとっては前日の逆転負けのイメージを払拭する、豪快な先制弾になった。

 

バックスはさらに16分、Dゾーンからの反転速攻からFW鈴木健斗が2点目を挙げる。相手ゴール前でパスアクロスを出し、その跳ね返りをたたいた粘りのスコアリング。「コロナで試合がない時は、全体練習が終わってから、どんな位置からでも、どんな体勢でも決められるような練習をしてきた」という男が、その言葉通りのゴールを決めた。

1ピリでバックスが2点をリード。2ピリに入っても双方無得点で時計が進む。試合はこのままバックスか。そんな空気が漂った37分、ブレイズはDF田中健太郎がシュートリバウンドを押し込んで1点差に詰め寄る。1ピリでPSを外した男が、きっちり穴埋めをしてみせた。

ブレイズ大久保智仁監督は1ピリ終了後、「2ピリ後半になれば相手は足が落ちてくる。そこからはクイックでОゾーンに入っていこう」と指示を出した。2ピリ以降、ブレイズはOゾーンでパスを回してパックを支配、バックスのスタミナをじわじわ奪っていく。1ピリのシュート数は、バックスの20本に対してブレイズは9本。2ピリは15本-12本とブレイズが上回った。

 

バックス1点リードのまま、試合は3ピリ後半へ。バックスは51分、シュートの連打によって生まれたゴール前のこぼれ球をFW牛来拓都が右から押し込んだ。雪が降り、あなたは来ないが牛は来た。今季、バックスの躍進を支えたのは、鈴木兄弟と古橋真来の1つ目に迫る爆発力を備えた寺尾、牛来、大椋舞人の2つ目のFWユニットだ。今季を象徴する分厚い攻めで、バックスは3-1とリードを広げる。しかも、ケガでサポートに回っているキャプテン・DF佐藤大翔の目の前で。試合の残り時間は8分半。あとはいかにして試合を締めくくるか。バックスの逃げ切りを信じて疑わない空気が、アリーナに充満していく。

 

それでもブレイズはあきらめなかった。54分、2人多いPPを生かしてFW人里茂樹がスコア。終了2分前には、好守のGK畑享和をベンチに上げて6人攻撃に望みを託した。

 

キーになったのは、58分のバックスのアイシングだった。バックスとすればパックをキープしたまま時計を進めたかったが、ニュートラルゾーンからパックをブレイズのゴールラインに流してしまった。バックスはチェンジができず、そこからシュートの連打を浴びる。ブレイズのルーキー・FW生江太樹が同点ゴールをねじ込んだのは、その直後のことだった。

こうなると勢いはブレイズだ。延長5分で決着がつかず、後期優勝はゲームウイニングショット(PS戦)に委ねられる。ブレイズはDFシモン・デニーが勝ち越し(2本目)のゴールイン。畑が古橋のシュートを防ぎ、ブレイズが連日の逆転勝利でファイナルへの切符をつかんだ。

「後期優勝して、何か特別なことをしたのかと思われるかもしれませんが、そういうことは何もないんです」と大久保監督は言った。ブレイズらしかったのは、3ピリ終了2分前、GK畑を上げる際にタイムアウトを取った時のシーンだ。大久保監督は特に指示を与えるでもなく、ただ選手を休ませた。前日の試合、3ピリ残り27秒でバックスがタイムアウトを取った時も同様だった。「僕が現役の時もそうでした。選手が疲れている時にスタッフがホワイトボードを使って何か言ったところで、ほとんど頭に入ってこないんです。であれば、30秒間しっかり休ませたほうがいいでしょう?」

 

その背景には、「選手自身が考える」文化がチームに備わってきたことがある。ブレイズの専任コーチングスタッフは、昨シーズンから大久保監督ただ1人。チームとしての約束事を踏まえた上で、「プレーの決まりごとはセットごとで話し合って決めさせている」という。専任コーチがいないことを逆手にとり、選手同士が話し合い、考えてプレーする習慣がついたのだ。

GK3人が出場機会を分け合ってシーズンを戦ってきたことも、トップリーグとしては珍しい。リーグ終盤にきて、この4月で45歳になる橋本三千雄が1戦目、畑が2戦目の先発というサイクルが定着。そこに、地力はそん色ない日本代表の古川駿が控えている。畑は「どこかでチャンスが来ると思っていました。もちろんチームが勝つことが前提ですが、与えられたチャンスでアピールすることで必死」。ゴーリーのリーダー役でもある橋本は「畑がすごくよくなっていますね。今日はPKでしっかり守ってくれましたし、復活といっていいと思います」と話す。

チームは1月、コロナウイルスのクラスターになった。遠征中のため苫小牧のホテルと札幌の療養所で過ごし、ホッケーから2週間以上離れた。

この日光2連戦で4ゴールを挙げた人里は言った。「あの隔離期間、僕もそうですし、みんながホッケーに飢えていました。ホッケーをやりたくてもできないあの時期に、勝ちたい気持ちが強くなった。技術なんて、そんなに急には上がりません。でも、あの経験で気持ちの面ですごく変わったし、強くなったと思います」

雪が降っていた。12月の全日本選手権決勝で、クレインズに敗れたあの日も。2点を先制し、しかしクレインズのベテランにあしらわれ逆転で敗れたチームは、3カ月後、勝つための習慣を身に着けた、したたかでたくましいチームになっていた。まさに「習慣、フリーブレイズ」。ジャパンカップ・後期優勝のトロフィーは、それを一番「欲しい」と願っていた男たちの手に渡った。

(取材・山口真一)

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